J.ブラームス 交響曲第4番 ホ短調

指揮エードリアン・ボールト
演奏ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
録音1972年3月4,13,14日
カップリングブラームス 交響曲第1番 他
「ブラームス交響曲全集」より
発売Disky (EMI)
CD番号HR 705412


このCDを聴いた感想です。


 有名な話ですが、ボールトはブラームスを特別な存在として考えており、35歳になるまでは公の場では指揮をしないと決心していたほどでした。(なんでも、一回だけその禁を破ったらしいのですが)
 つまり、ブラームスの曲というのは、その時感じていたことをそのまま音にすればよい音楽ではなく、考えに考え抜いて、初めて他人に聞かせられる演奏ができると考えたのでしょう。
 ボールトが82歳になって録音した全集の中のこの演奏は、そういう姿勢がよく伝わってきます。
 終始じっくり穏やかで、勢いのみで突っ走ったり奇をてらった部分はほとんどありません。
 一気に盛り上げるような爆発力も無ければ、キレの良いスピード感も無く、テンポだって速くも無ければ遅くも無し、本当にテンポから表現から全て『平均的』という言葉がそのまま当てはまるような、最初から最後まで表面的には普通を画に描いたような演奏です。
 しかし、これだけ普通を積み重ねていながら、聞こえてくる音楽にはたしかに他の演奏には無い個性があります。
 それこそメロディー一つ、和音一つをとっても、適度なテンポと表現のようでいて、その歌わせ方や響かせ方から、調和や寂しさあるいは優しさといった雰囲気がじんわりと伝わってくるのです。
 実際、オーケストラにもその点を強く意識させていると思います。
 例えば第1楽章のコーダの演奏というと、フルトヴェングラーに代表されるような加速しながら一層燃えていくという系統の演奏がある一方で、それとは逆にあまり加速せずガッチリと造形を保って最後まで落ち着いた演奏もあります。ボールトの演奏は、むしろ前者の系統なのですが、加速して燃えながらもバランスを崩してまで勢いを前面に出すのではなく、安定感は保ったまま白熱していき、ちゃんと第1楽章の終わりに向けて大きく盛り上がります。こういう辺り、熱気は上昇させて盛り上げたいがバランスは崩したくない、という考えを突き詰めることで編み出したのでしょう。
 この調和した中で少し突出しているのがホルンです。
 弱いピアノの部分はそうでもないのですが、強いフォルテで出てくる部分は結構激しい音で、全体の響き+ホルンという形で単独で存在感を示しています。
 このホルンの存在が、調和した響きに彫りをつけています。力強さと変化が生まれ、常に調和しているとどうしても同じ雰囲気に聞こえがちになるのを防いでいるのです。このホルンの扱いはボールト独自であり、上手いと感じました。
 ところで、全体通して普通と書きましたが、実は一箇所だけ突然変異のように異常な部分があります。
 第4楽章の中間、6分辺りに出てくる、全楽器がフォルテで音階を一気に駆け上がるような動きをする部分です。
 なぜかここだけ急にテンポが極端に遅くなり、まるでスローモーションを見ているかのようにじっくりと演奏しています。
 他の演奏でも、そこだけテンポを遅くする演奏なんて聴いたことがありません。
 ボールトがそこまでしてこの部分を強調したかった心境はわかりませんが、たしかに面白いですしよく目立っています。むしろ演奏の特徴として一番印象に残るのはこの部分でしょう。(2005/12/17)


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