J.ブラームス 交響曲第4番 ホ短調

指揮アルトゥーロ・トスカニーニ
演奏BBC交響楽団
録音1935年6月3・5日
カップリングブラームス 悲劇的序曲
発売EMI
CD番号CDH 7 69783 2


このCDを聴いた感想です。


 トスカニーニの演奏というと、カンタービレを効かせた旋律の歌わせ方と共に、鋼鉄の意志をそのまま音にしたかのような力強さのイメージがありますが、この演奏は、若い頃晩年ではないこともあり、併せて柔らかさも兼ね備えています。
 晩年の演奏では、音楽を直線的にしようとするあまり、しばしば音楽の流れを無視してしまったことも多いのですが、この演奏ではテンポにも柔軟性があり、晩年の演奏には見られないようなリタルダンドや大きな間合いがあったりして、余裕が感じられます。
 特に第1楽章の最後の方なんかは、フルトヴェングラー張りのアッチェルランドがあったりして、ずいぶんロマンティックな傾向が強く表れています。
 しかも、それでいてフォルテの部分での力強さは後年の演奏と較べても遜色なく、ドリルのようにグングン突き進んで行く様は、周囲のものを全て蹴散らかしていくかのような迫力があります。
 一方、カンタービレの方も健在です。
 ビブラートとダイナミクスの変化を幅広く使う、スケールの大きな歌わせ方です。
 さらに、それだけではなく、部分的にはポルタメントまで入れていて、まるでメンゲルベルクを髣髴させるかのような歌わせ方までしています。
 いやもう、これでもう少し短く細かく歌わせていたら、メンゲルベルクそのものと言いたくなるほどです。
 個人的には、こういう歌わせ方は大好きなのですが、トスカニーニにもこういう歌わせ方をしていた時期があったんですねぇ。
 一瞬、トスカニーニはこのスタイルが元々で、最晩年に変わってしまっただけかとも思いましたが、良く考えてみると、この演奏よりも前のニューヨーク・フィル響との演奏では、より晩年に近いスッキリした雰囲気なんですよね。
 そうすると、後は、オーケストラであるBBC響の影響ぐらいしか思いつかないのですが、その時期のBBC響にそんな傾向があったなんていう話も聞いたことがありませんし……(もしかしたら、わたしが知らないだけで本当は大きく影響を与えているのかもしれませんが)
 うーん……ぜひ原因を知りたいですね。

 この演奏は、多々良い点があるのですが、どうにもつらいのが録音です。
 いや、当時としては格別に悪いというほどでは無いと思いますよ。そもそもライブですし。そう考えると、むしろマシな方かもしれません。
 しかし、いかんせん、まだ1935年です。
 音も鮮明さに欠けますし、雑音のたくさん入ってきます。
 第4楽章の頭に至っては、音がブツ切れになってしまっています。
 例えば、これがメンゲルベルクの演奏だったら、他に無いということで諦めもつくのですが、トスカニーニの場合は、晩年にNBC響とフィルハーモニア管との、この録音よりもずっと音が良い演奏がありますので、どうしてもそれと較べてしまうのです。
 演奏自体は、その二つとは異なる良さがあるだけに残念です。


 ここからは全くの余談になります。
 実は、このCDは、わたしが初めて買ったブラームスの交響曲のCDなのです。
 当時わたしは大学に入ったばかりで、オーケストラに入っていたとはいえ、クラシックのクの字も知らず、もちろんブラームスの曲なんて聞いたこともありませんでした。
 そんな折、『ブラームスの交響曲第4番はぜひ押えておくべきだ』という話を、誰かから聞いて、同じオーケストラに所属している友人と共にCD屋(おそらく秋葉原の石丸電気)に買いに行ったのです。
 で、当然のことながら、ブラームスの交響曲第4番のCDなんて、それこそ山のようにあります。
 当時、演奏家もろくに知らなかったわたしは、どのCDを買おうか迷ってしまいました。
 その時、同行した友人が選んでくれたのがこのCDだったのです。
 とりあえず、何もわからないままそのCDを買って、帰ってから家で聴いてみて思いっきりひっくり返りましたよ。
 そのあまりの音の悪さに(笑)
 結局、その時は、音の悪さばかり耳について演奏がどうとか感じられる余裕はありませんでした。
 全く、とんでもないCDを買わされたと思ったものです。
 ちなみに友人も、同様に、ブラームスの第4番のCDを買ったのですが、友人が買ったのは、ワルターとコロンビア響の演奏というところがちゃっかりしています(笑) (ただ、友人もそれほど演奏家に詳しいわけではありませんので、おそらくトスカニーニをわたしに勧めて、自分がワルターを買ったのも、別に他意は無く、たまたま適当に選んだだけだったのでしょう)
 しかし、結局わたしは、このCDで初めてモノラルを聞き始め、以後、好んでモノラルの時代の演奏を聴くようになったのだから面白いものです。(2002/4/5)


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