J.ブラームス 交響曲第3番 ヘ長調

指揮グィド・カンテルリ
演奏フィルハーモニア管弦楽団
録音1955年8月8・9・12・16・18
カップリングメンデルスゾーン 交響曲第4番<イタリア>
発売TESTAMENT(EMI)
CD番号SBT 1173


このCDを聴いた感想です。


 肌に心地よいそよ風のような、軽く涼しい演奏です。
 一定のテンポを保ってあまりテンポを動かさない演奏ですが、テンポ自体はそれほど速くはなく、疾走して行くようなスピード感はありません。かといってどんよりと停滞しているような演奏でもありません。適度の速さを保ち、調子よく歩いている時に顔に快適な風が当たっているみたいに気持ちよく、自然な流れに乗っています。
 バランス的にも、低音が必要最低限に抑えられていて、どっしりと腰を下ろしたような重さは無く、響きの風通しが良く、フワッと浮いているような軽さがあります。
 色彩の方も、あまりそれぞれの楽器の音色を強調させず、どぎつくない淡い色彩でまとめていて、それこそ抜けるような清々しさに、聴いていると気持ちが安らかになってきます。
 全体的な色調に合わせてメロディーの歌わせ方も控えめで、表情をたっぷりつけて思いっきり歌わせたりアタックを強調して輪郭を際立たせたりといった事はしていませんが、控えめの中にも細やかな表情の変化をつけています。
 特にメロディーの最後などのような、フォルテからピアノに落として一区切りつける部分は、その移り変わりが柔らかく自然で、ピアノに落ちてからも音が痩せず、弱く小さい音ながら存在感のある暖かい音です。
 また、歌わせ方が控えめといっても、第2・3楽章は、両端楽章よりは少しばかり表情を濃くして歌わせています。
 ただそれも全体の雰囲気を壊すほどではありませんし、第2楽章は、もともとあまり起伏の無い平坦に近い曲調ですから、メロディーを少し濃く歌わせるぐらいの方がほどよい陰影がついて聴く者を楽しくしてくれます。
 第3楽章も、表情が濃い目ではあるのですが、もともと思いっきり歌いこむ楽章ですし、他の演奏に比べると、まだまだサッパリとした薄口の方でしょう。
 その中で、聴いた瞬間に「これは上手い!」と思ったのがホルンです。
 余計なビブラートとか過剰な歌いこみを一切せず、ほとんどメロディーをそのまま吹いているだけなのに、陶磁器の名器のように奇妙なほど深みがあり、強く印象付けられます。たぶん、音の移り変わりと微妙な音の変化が非常に上手いのでしょう。
 ソロを聞いた直後に思い出したのですが、録音年とオーケストラからして、たぶんこのソロは、20世紀最高のホルン奏者の一人であるデニス・ブレインではないでしょうか。もしそうでなければ、その時期にブレインの下で2ndホルンを吹いていた、こちらもソリストとして著名なアラン・シヴィルでしょう。
 本当に二人のうちのどちらかであれば、それだけソロが素晴らしくても何の不思議でもありません。
 しかし改めて考えてみると、1stにブレインがいて2ndにシヴィルがいるなんて、当時のフィルハーモニア管は非常に贅沢なオーケストラですね。
 ついでに、同時期のロンドン響にはタックウェルがいたわけですから、ロンドンのオーケストラ自体豪華な顔ぶれが揃っていたと言えるかもしれません。
 話を元に戻します。さて、いろいろと魅力が多いこの演奏ですが、気になる点が無いわけではありません。
 一番気になったのはアンサンブルの乱れです。
 別に下手なわけではないのですが、1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンで縦の線が合っていないところがあり、それが特に目に付くのです。
 両ヴァイオリンが合わない一つの原因にはオーケストラの並び方があります。
 古典的な並び方であるいわゆる『対抗配置』を採用しているため、ヴァイオリンが上手と下手に遠く離れてしまい、今日主流のヴァイオリンが両方とも下手に来る配置に比べて、どうしても合わせる事が難しくなってきます。
 さらに録音もこの傾向に拍車をかけています。
 1955年でステレオ録音というのは、それ自体が拍手モノなのですが、この時期の録音の特徴として、楽器間の分離が異常に良すぎるのです。
 各楽器の細かいところが良くわかるので、分離が良いことが必ずしも悪いわけではないのですが、どうしても響きに欠けるためズレを包み隠すことが出来ず、少しのズレもクッキリと表に出てしまうのです。
 ただ、この演奏のズレの面白いところは、一番ズレやすい、1stと2ndでメロディーの掛け合いをやったり、受け渡しをするところではズレは無く、一定のテンポに乗って長々と同じメロディーを演奏するところでズレてしまっています。なんだか不思議です。(2004/1/31)


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