J.ブラームス 交響曲第2番 ニ長調

指揮ウォルター・ダムロッシュ
演奏ニューヨーク交響楽団
録音1928年1月4〜6日
カップリングブラームス 交響曲第4番
発売Biddulph(Columbia)
CD番号WHL 053


このCDを聴いた感想です。


 このCDで一番注目して頂きたいのはオーケストラの名前です。

 ニューヨーク交響楽団

 フィルではなく交響楽団。別に誤植ではありません。
 では、一体この団体は何かというと、まあ、早い話が現在のニューヨーク・フィルの母体の一つなのです。
 しかし、メンゲルベルクが1922年頃から録音を残しているニューヨーク・フィルハーモニックとは全くの別団体で、1928年にメンゲルベルクのニューヨーク・フィルと、このニューヨーク響が合併し、今のニューヨーク・フィルとなったわけです(合併後の当時の名称はニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団)。
 現在は、後ろの交響楽団が取れて名称が単なるニューヨーク・フィルハーモニックに戻ってしまったこともあり、ニューヨーク交響楽団という名前はほとんど忘れられかけているのではないでしょうか。アマチュアは分かりませんが、少なくともプロのオーケストラには、今でもニューヨーク交響楽団という名前を付けたオーケストラは存在しないようですし。
 録音にしても、合併前のニューヨーク・フィルの方は、メンゲルベルクのような割と名前の知られた指揮者が指揮していたこともあって録音も多少はあり、その前任のストランスキーでさえ録音を残しているのですが、ニューヨーク響の方はそういう話をほとんど聞いたことがありません。
 というか、このCDを見た時、そもそも録音があった事に驚いたぐらいです。
 ニューヨーク響の常任(どうやら創設者でもあるようです)でこの演奏でも指揮をしているダムロッシュは、その父親から二代に渡ってニューヨーク・フィルとニューヨーク響の両方に関わりがあり、ニューヨークの音楽界では相当の有名人のはずですから、録音を残していても良いようなものですが、なぜかほとんど見たことがありません。
 妙に貴重なこの演奏ですが、録音されたのは1928年の1月。で、ニューヨーク・フィルと合併したのが同年の2月。本当に合併間際で、ニューヨーク交響楽団という名称が無くなる寸前の録音というわけです。(ちなみに、ニューヨーク・フィルの方は、さらに前に別の団体と合併していますが、その辺りの事情は省略しました)

 少々前振りが長くなってしまいました。
 さて演奏の方ですが、とにかくテンポで非常に違和感を感じました。
 基本は速いテンポで、ここぞというポイントだけ遅くするという、この説明だと20世紀前半に多くの指揮者がやっていた振り方と変わらないと思われるでしょうが、そのテンポのとり方が今一つ音楽と上手く噛み合っていないのです。
 例えば遅くなるポイントにしても、一応、フォルテで最も盛り上がる部分を遅くしているのですが、前の部分から次第に盛り上がっていった結果、といった雰囲気があまりなく、たしかに盛り上げてはいるのですが、まだ盛り上げ方も半ばというところから急にクライマックスに跳んでしまったかのようにひどく唐突に聞こえます。
 で、そのなんか納得できない盛り上がりの頂点で遅くした後、すぐ速いテンポに戻るのですが、こんどはオーケストラが上手くついてきません。
 当時としてはちょっと速めという事もあるのでしょうが(もしかしたら録音時間の制限も影響しているのかもしれません)、どうも後ろから引っ張られたように遅れ気味になったり、それを取り戻そうと慌ててか前に突込み気味になったりと今一つ安定していません。
 なんだか、スキーの初心者が板のコントロールを失って、板に引きずられる格好で勝手にスピードが出てしまったみたいです。
 なにしろオーケストラの腕前の方も少し怪しげで、個人個人を見ればそれなりに弾いたり吹いたりしているのですが、合奏だと相当冷や汗ものの箇所があちこちに出てきます。
 個人では演奏できていても全体で合わせるというのはなかなか難しいようです。
 第4楽章の最後の最後で、トランペットがメロディーを高らかに吹くちょっと前なんて、アンサンブルがいかに崩壊していくかの典型を見ているかのようです。
 トロンボーンが四分音符で下降している辺りまでは、弦楽器も良く弾けていてアンサンブルもかなり合っています。
 それが、全合奏でガーっと弾いて、全休止のあと、またフォルテで全合奏になるという部分で、ダムロッシュがさらにテンポを上げるものですから、今までギリギリ保っていたものが臨界点を越えてしまい、一気にバラバラになってしまいました。
 聴いている方の気持ちとしては、「お、意外といいじゃないか」と思い、「これは、もしかして行けるか」と期待が高まり、「あともう少しだ、このまま行けばこの難所も乗り越えられるかも!」と期待が最高潮に達したところで、「やっぱりダメでしたー」と落とされたみたいなものですね。
 ダムロッシュ、オチとしてはけっこうオイシイところを持っていっています(笑)
 速いテンポの楽章が、いろいろ違和感を感じさせるのに対して、遅いテンポの第2・3楽章は、変な部分が無く、少し重めではありますが普通に真っ当な演奏です。
 あまりにも真っ当すぎて、変な第1・4楽章の方ばかり印象に残ってしまい、存在感が薄くなっているのがちょっと不運でしたが。
 また、演奏以上に録音の方にも問題がありました。
 雑音が多いのはまあしょうがないとしても、響きが薄くこもった音になっているため、細かいニュアンスまで聞き取れず、よけいに悪く聞こえるのです。
 もし、もうちょっと豊かな潤いのある音で録音できていたら、もっと印象も変わっていたことでしょう。
 もっとも、そういう響きの薄いこもった音というのは、この録音に限らずBiddulphの録音に共通している点ですから、他の会社の復刻だとまた違うのかもしれませんし、Biddulphにしても、その音を評価する人は多いのですから、再生装置による相性も大きいのかもしれません。

 ところで、指揮をしているダムロッシュは、指揮の他に、ラジオ番組を受け持ってクラシック音楽の普及にも力を注いでいたそうです。
 後年、バーンスタインがやっていた啓蒙活動のはしりといったところでしょうか。
 ただ、この時のダムロッシュのやり方というのが、クラシックの曲の主要なメロディーに自作の歌詞をつけて歌い広めていくことで親しみを持ってもらおうというもので、またその歌詞というのが曲の内容とはほとんど関係の無いものだったらしく、当時から既にひどい評判だったようです(笑)(2004/10/9)


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