J.ブラームス ピアノ協奏曲第1番 ニ短調

指揮エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム
独奏ピアノ:クリフォード・カーゾン
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1953年5月
カップリングブラームス ハイドンの主題による変奏曲
発売キングレコード(LONDON)
CD番号K28Y 1040


このCDを聴いた感想です。


 私の知っている限り、カーゾンはピアノ協奏曲第1番を3回録音しており、このヴァン・ベイヌムとの録音は、その2回目にあたります。
 正直に言って、カーゾンを聴くのであれば、第3回目の名盤と名高いセル/ロンドン響との録音をお勧めします。2回目までのモノラル録音と違い、ステレオ録音と録音が良く、カーゾンの音色などの特徴が最もよくわかります。それにセルの伴奏も、まさに「立派」という言葉がピタリと合う堂々とした素晴らしいものです。一方、最初の、ホルダ/ナショナル響との録音も、第3楽章の疾走感などに、若々しいカーゾンを聴く事ができます。
 では、なぜ今回第2回目の録音を取り上げるかと言うと、ひとえに伴奏のヴァン・ベイヌム/コンセルトヘボウ管について語りたかったからです。
 たしかに第3回目のセル/ロンドン響の伴奏は立派で、十分に名演の名に恥じないものです。しかし、ヴァン・ベイヌムの伴奏からは、セルの伴奏以上に、音のキレとなにより高揚感が感じられました。
 これは、いきなり冒頭から存分に伝わってきます。
 もともと曲調そのものが緊張感の高い始まり方ですが、キレのある音で、ズバッと斧で打ち込んだように強い力で入ってきます。それだけでも十分緊張感が高いのに、ティンパニーのクレッシェンドとディミヌエンドが大きくあおり、さらに圧力を加えていきます。
 この時点で、限界に近いと思われるのに、次に冒頭の動きが登場するところで、さらにもう一段階緊張感が上がるのです。ターボエンジンのようにエネルギーが強く凝縮され、その圧力から生まれてくる熱気と輝きは素晴らしく、圧倒される思いがします。
 その緊張感が、いったん落ち着いた後、ピアノソロが始まる少し前に、再度冒頭の動きが登場し、ピアノソロが始まる直前で、音楽が盛り上がる頂点で一気に明るくなる部分があります。この明るくなる部分の高揚感がこれがまた非常に高いのです。
 冒頭と同様に、冒頭と同じ動きの部分でスピードの速いキレのある音で高い緊張感を生み出しエネルギーをどんどん圧縮していきます。そして、明るい部分で上に向かって一気に突き上げていく様子は、まさに自然と拳を握り締めてしまうぐらいの、強い高揚感を感じました。この噴火のような太く熱いエネルギーの一気の上昇と、眩しいほどの輝きは、わたしが聴いたどの演奏よりも遥かに上回っていました。
 もともと、よく知られているようにピアノソロが出てくるまでが異常に長いこともあって、もうピアノソロ前の部分を聴いただけで、一曲聴いた気分です。おかげで、ピアノソロがやっと出て来て曲はこれからというのに、気分的にはすでにアンコールぐらいの抜け殻状態で、残りは半分余韻のように感じてしまったほどです。
 ピアノソロまでが、あまりにも内容が濃すぎて、カーゾンのピアノの印象がだいぶ薄くなってしまったわけですが、それでも満足できるほど強く印象に残りました。
 もちろん、カーゾンのソロも、上記のように他の2種類の録音ほどは特徴が見えにくかったものの、素晴らしいことは言うまでもありません。硬質でクリアな音色で、その弾き方は冷静と言いたくなる様な、しっかりとしたものです。特に音色は、フォルテでは録音の限界もあって今一つでしたが、ピアノではキラキラとクリアな響きがよく表れていました。丁寧な歌い方もあり、美しさに感嘆しながら、じっくりと聞き入ってしまいます。
 わたしが持っているこの演奏のCDは、データ部分に書いているように、キングレコードから出た国内盤で、同じヴァン・ベイヌムの「ハイドンの主題による変奏曲」とのカップリングになったものです。しかし、1990年前後に発売されたものですから、現在となってはちょっと入手しづらいと思います。ただ、カップリングは異なりますが、輸入盤でDECCAより出ている「クリフォード・カーゾンDECCA録音集Vol.2」に収録されています。4枚組みとちょっと高いのが難ですが、こちらの方が手に入りやすいと思います。
 面白いことに、このカーゾンのDECCA録音集は、Vol.1からVol.4までが出ており、この中に、冒頭で書いたカーゾンのブラームス/ピアノ協奏曲第1番の3種類の録音が、全て含まれているのです。最初のホルダとの録音がVol.3、2回目のヴァン・ベイヌムとの録音がVol.2、セルとの録音がVol.4に収録されています。これも、3種類ともDECCA録音だったからできたことでしょう。カーゾンがおそらくDECCA専属だったため全てDECCAの録音だとは思いますが、それにしても最初のホルダとの録音が1946年で、ヴァン・ベイヌムとの録音が1953年、セルとの録音が1962年ですから、16年の間に3回も同じ曲を録音していることになります。一応、最初はSP用、2回目はLPが登場したから、3回目はステレオ録音が登場したからという意味合いはあるのかもしれませんが、同じ曲をそんな短期間に3回も録音するとは、よほどカーゾンが望んだのか、ということは、カーゾンは1回目と2回目の録音には満足できていなかったのかなど、ちょっと気になるところです。(2010/2/20)


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