J.ブル ブルンスウィック公爵のアルマン、ブルンスウィック公爵夫人のトイ

独奏ヴァージナル:グスタフ・レオンハルト
録音1992年10月7〜8日
カップリングバード パヴァンとガイヤルド 他
「エリザベス王朝のヴァージナル音楽」より
発売ユニバーサルミュージック(PHILIPS)
CD番号UCCP-3467(438 1352)


このCDを聴いた感想です。


 今までチェンバロの演奏はいくつか聴いたことがありました。しかし、ヴァージナルによる演奏は聴いた事がありませんでした。
 チェンバロと同系統の鍵盤楽器というのは知っていたので、音色もチェンバロとそれほど変わらないのかな、と思っていました。ところが、いざ聴いてみるとこれが結構違うのです。当然個々の楽器によっても異なるのでしょうが、はっきりと聞き分けられるぐらいに違います。
 大雑把に言って、チェンバロが「チャラン」とか「シャラン」といった少し鋭く音の立った華やかな音色に対して、ヴァージナルの音色は、「ポー」といった感じで、太くて丸い音なのです。何だかどこかで聞いた事があるような気がして、考えてみると、思い当たりました。クラリネットにどことなく似ているのです。もちろん鍵盤楽器と木管楽器ですからどちらがどちらかわからなくなるほど似ているわけではありません。それでも「ポー」という音色に同じような雰囲気を感じます。
 後で調べてみると、ヴァージナルはいろいろな種類があり、その中でも、この演奏で使われているのは、ミュゼラー・ヴァージナルというタイプだと思います。このヴァージナルは、張られている弦の中央部を弾いて音を出す構造で、その時の弦の動きから、出てくる音は、奇数倍音は豊かなのに比べて、偶数倍音は著しく少ないのだそうです。この奇数倍音が多くて偶数倍音が少ないというのは、片一方が閉じた円筒から出る音も同じ傾向になります。この片方が閉じた円筒の構造の楽器というのがクラリネットなのです。この辺りがどことなく似ているように感じた理由なのでしょう。ちなみに、クラリネットと同じような形に見えるオーボエは、クラリネットの円筒とは異なり、円錐形の管なので音色も大きく異なるというわけです。
 話をヴァージナルに戻して、こういった「ポー」という音色は、鍵盤楽器でありながら、チェンバロやピアノなどとは異なり、素朴で暖かい印象を受けました。本当は、ヴァージナルによる演奏を他にもいろいろ聴きたかったのですが、残念ながらこのCDに収録されている15曲の中で、ヴァージナルで演奏されているのは今回取り上げた2曲だけで、他はチェンバロで演奏されています。チェンバロによる演奏もそれはそれでまた異なる味わいがありますが、個人的にはもっとヴァージナルで演奏して欲しかったものです。
 そもそも、このCDのタイトルは「エリザベス王朝のヴァージナル音楽」で、その多くは、フィッツ・ウィリアム・ヴァージナル・ブックという曲集に収録されていたもの、つまりヴァージナルのための音楽のはずなのですから。
 ちなみに、このフィッツウィリアム・ヴァージナル・ブックには、私が好きなファーナビーの舞曲集が収録されていて、このCDももともとファーナビーを聴くつもりで買ったものです。CDには舞曲集の中の「トイ」が収録されていて、それはチェンバロにより演奏されています。
 ファーナビーの「トイ」を聴き、今回取り上げる中の片方「ブルンスウィック公爵夫人のトイ」を聴いたところ、この2曲もまたどことなく似ていることに気づきました。
 テンポと冒頭部分の和音進行が、よく似ています。さらにどちらも名称が「トイ」。「トイ」という名称がつく曲は、ファーナビーとブル以外にも同時代の他の作曲家も作っていて、聴いてみると、この2曲ほどではないにしても、やはり和音進行など近いように思われます。CDに付属していた解説によると、トイとは「2節から成り、各節は変奏という形で繰り返される」という形式の曲なのだそうです。特に和音について決まりがあるわけではなさそうで、和音進行が似ていたのも単なる偶然かもしれません。この辺りはもっと調べる必要がありそうです。
 ただ、どちらにしろ小曲の形式なのでしょう。ファーナビーでは1分半くらい、この「ブルンスウィック公爵夫人のトイ」は約1分です。ヴァージナルで演奏されているもう一曲の「ブルンスウィック公爵のアルマン」にしても2分弱で、どちらもごく軽い曲で、お菓子のように、お腹にたまらないけれど繊細な味があり、小さくても意外なほど印象に残ります。
 作曲したジョン・ブルはファーナビーと同世代の16世紀後半ばから17世紀にかけて活躍した人で、知名度しては、むしろファーナビーよりも上でしょう。当時のイギリスではバード辺りと並んでトップクラスといっても良いかもしれません。代表曲は、この2曲ではなく、おそらく「王の狩」だと思います。(2009/6/20)


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