I.ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」

指揮ロリン・マゼール
演奏イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
録音1962年4月
カップリングストラヴィンスキー 春の祭典
発売ポリグラム(DECCA)
CD番号POCL-9972(458 754-2)


このCDを聴いた感想です。


 重心が不自然なほど前に寄った演奏です。
 特に第1場「謝肉祭の日」と第4場「謝肉祭の夕方」にその特徴が強く表われていて、音楽が常に前に突込み気味になっています。まるで、極端に前傾姿勢をとっているため、そのまま倒れこみそうになっているところを、あわてて足を前に出し続けることでなんとか倒れるの防いでいるかのようです。
 たしかに基本のテンポ自体も速めですが、テンポが速いということがそう感じる理由ではありません。この曲には、音楽が流れが完全に一段落してから次の音楽に移るのではなく、まだ途中で唐突に全く違う音楽が割り込んでくるような展開がよく登場しますが、次の音楽の入りがミクロン単位でほんのわずかに早いのか、その変わり目で妙に前に突っ込み気味に聞こえるのです。
 浮き足立っているみたいで落ち着かないことこの上ないものの、逆に言えば、安定して落ち着いたために緊張感が薄くなることなく、勇み足になることを恐れず前に突っ込んでいった、積極的な姿勢はよく伝わってきます。リズムも硬く強めに刻まれていて、なにやらロックのコンサートの縦ノリを思い起こさせるような力強いビートがあり、テンポの速さと相まって、スピード感はかなりものです。
 録音はデータから見るとスタジオ録音だと思いますが、テンポにピタリと合わなくて多少突込み気味でもスピードとリズムに乗って音楽がどんどん高揚していく辺り、まるでライブ録音を聞いているかのような錯覚を感じます。
 その一方で、ノリ一本槍の勢いだけの演奏ではありません。
 テンポがゆっくりとした部分では、テンポを細かく伸び縮みさせながら丁寧に歌わせています。
 なかでも、第1場「謝肉祭の日」の後半のロシア舞曲に移る直前の、人形師が魔法の笛で人形に命を吹き込むフルートのソロは絶品です。
 音型としては、分散和音で上がって最後の音を伸ばし、分散和音で下がってまた最後の音を伸ばし、を繰り返しているだけですが、この演奏では、テンポを動かして一つ一つ違いを持たせています。分散和音の上がる速さ、そして上がった音の伸ばす長さに細かく差がつくことで、メロディーが急に生き生きと、語りかけてくるように聞こえるのです。
 このテンポの伸び縮みは、伸ばしすぎてもダメですし縮みすぎてもダメ、しかもメロディーにドラマを持たせるために最適な伸ばし方や縮ませ方は、一つ一つ異なっています。それがピタリと収まっているということは、ここは相当細かく計算してテンポを動かしているのではないかと思います。
 こういうところは、テンポの速いノリの良い部分とは反対に、非常に精緻に音楽を作り上げている印象を受けます。
 大胆さと繊細さが境目無く同居するのではなく、大胆な部分は思いっきり大胆に、繊細な部分はミリ単位で整える、といったように、それぞれの持ち味がダイレクトに表われた演奏です。
 マゼールは、1998年にウィーン・フィルとこの曲を再度録音しているのですが、残念ながらそちらはまだ聴いていません。1960年代のこの録音を較べると、やはり円熟の方向に進んだ音楽になったのか、なかなか興味が惹かれるところです。(2007/10/20)


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