I.ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」

指揮セルゲイ・クーセヴィツキー
演奏ボストン交響楽団
録音1928年11月13〜14日
カップリングストラヴィンスキー ミューズをつかさどるアポロ 他
発売Pearl(Victor)
CD番号GEMM CD 9020


このCDを聴いた感想です。


 残念ながら全曲ではありません。
 第1場は前半の群集や人形使いの場面が完全にカットされて、ロシアの踊りからしかなく、第3場のムーア人の部屋にいたっては丸ごと無くなっています。
 ちなみに、同じ年に作曲者本人による自演盤が録音されていますが、こちらは一応冒頭から最後まであり、場を丸ごとカットしたりはしていません。ただこれも完全版とはとても言えない代物で、大きなカットが無い代わりに細かいカットがいくつもあり、例えば第4場では農夫と熊の部分が削られてその前後が無理やりつなげられています。
 一方、クーセヴィツキーの方は、大きなカットはあるものの、その他の部分ではカットをしていません(場と場の間のドラムロールを別として)。どっちも五十歩百歩といったところですが、変に細切れにカットされるよりも、こちらの方がまだ自然に聞こえます。
 まあ、大きくカットするか小さくカットするかの違いで、トータルの演奏時間としては、正確に測ったわけではありませんが、おそらく同じくらいではないでしょうか。
 ついでに、この二つの演奏にはちょっと面白い共通点があります。曲の最後が演奏会用バージョンのエンディングで終わっているのです。
 つまり、第4場の後半で、仮面を付けた人々の踊りの後、ペトルーシュカが小屋から飛び出して来るシーン以降が無く、ヴァイオリンがトリルしながら伸ばしている音に次々と楽器が重なってクレッシェンドしていき、最後はフォルティッシモで一斉に和音を弾いて終わりという、かなりとってつけたような終わり方です。
「演奏会用エンディング」という名目ですが、実際にはバレエ無しでオーケストラだけの演奏でもこのエンディングが使われることはまずありません。わたしも楽譜に書いてあったのでそういうエンディングがあることは知っていましたが、採用されている演奏を聞いたことはなく、この二つの録音で初めて耳にしました。
 その点では、貴重といえば貴重ですが、聞くと、たしかにその後の演奏でほとんど採用されなかったのもよく分かります。
 かなり強引な終わらせ方で、まるで突然打ち切られた連載漫画のようです。いいところは……希少価値と話のネタになるぐらいでしょう。後は、演奏時間を短くできるということぐらいでしょうか。この二つの録音が採用しているのも、昔の録音だけにもしかしたら録音時間の制約という面もあるのかもしれません。

 演奏内容の方は、クーセヴィツキーとボストン響のコンビらしく、危なげなく安心して聞けるものです。
 大編成の曲なのでどうしても録音上の不利はありますが、それでも技術が安定して自信を持って演奏していることはよくわかります。テンポの取り方も自然で、拍子の複雑さを感じさせないぐらい、メロディーに合わせて滑らかに伸び縮みします。
 特に、音楽がスムーズに流れてギクシャクしている部分がほとんど無いことには驚かされました。
 同年の作曲者自演の演奏と較べて聞いたのでよけいにそう思うのかもしれません。
 自演の方も、オーケストラが素性不明の「交響楽団」というオーケストラのわりには各プレイヤーの腕前はそれほど悪くは無いのですが、全体でのアンサンブルはかなり怪しげです。
 ボストン響は、個人の腕前もさることながら、全体での統一感が大きく違います。
 パートからパートへの音楽の受け渡しが普通の四拍子の曲でも演奏するかのように事も無く行なわれています。
 メロディーの歌い方も、妙に力を入れて歌い込んだものではなく、肩の力を抜いて明るく歌っています。劇的に盛り上がったりといったドラマ性はありませんが、田舎のお祭りのような少しのんびりとしつつでも祝祭的な雰囲気の演奏です。
 録音が録音だけにとても他の人に薦められるような演奏ではありませんが、わたしは楽しく聞くことができました。(2006/8/5)


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