I.ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」

指揮シャルル・デュトワ
独奏P:アーマス・マイステ
演奏モントリオール交響楽団
録音1986年11月
カップリングストラヴィンスキー 「うぐいすの歌」 他
発売ポリドール(DECCA)
CD番号POCL-2765(417 619-2)


このCDを聴いた感想です。


 聴いた時の印象は『洗練されている』とにかくこれにつきました。
 ドロドロとした愛憎劇ではなく、サラッとしたおとぎ話、淡い色彩と繊細な感覚が感じられる演奏です。
 ペトルーシュカという曲は、みなさんもご存知の通り、変拍子は当たり前のように登場しますし、それがまた数小節ごとにコロコロと変わり、リズムも強いアクセントを伴う不規則なもので、後の春の祭典ほどではないにしても重要な役割を担っています。
 その辺りが、ペトルーシュカという音楽が現実から一歩踏み外してしまったかのような異常さを感じさせる大きな要因でもあるのですが、デュトワの演奏は、そんな異常さがほとんど感じられません。
 まるでロマン派……いや、古典派の曲みたいに同じ拍子でずっと続いている曲を聴いているかのような気になってきます。他の演奏ではよく感じる、思わぬところにアクセントが来て驚かされたり、同じ拍子が続くかと見せかけてコロッと別の拍子に変わって肩透かしを食らったりすることなく、あるべき当然の場所にアクセントがあり、次はこうなるはずだという予想通りにリズムが動いていくという、本当に普通の曲を聴いているみたいです。
 ただ、ペトルーシュカらしいリズムやアクセントが完全に無くなり、山も谷も無いのっぺりとした音楽になっているわけではありません。オーケストラ全体が淡く優しい雰囲気の中、唯一硬くクリアーなのがティンパニーを始めとするパーカッション群です。パーカッションだけはキチッと輪郭を保っていて、これが一歩間違えると緩みかねない雰囲気を上手く引き締めています。
 今まで、ストラヴィンスキーの三大バレエというと、リズムとアタックを強調した先鋭的な演奏や、複雑なリズムの絡み合いを分析的にクリアに解き明かした演奏や、ドロドロとした情念を強く出した演奏とかばかり聴いていましたので、このデュトワのような、他の曲とは異なる部分を強調したりせず他の部分と同等に扱い全体を淡い雰囲気で優しくまとめている演奏は非常に新鮮でした。
 デュトワには、このモントリオール響との録音以前に、1975年にロンドン響とも録音していますが、そちらの方は、まだこの演奏ほどは洗練されていません。
 アタックやリズムが強調され、鋭さやグロテスクな雰囲気が表れています。もちろん、これはこれで良い演奏ですが、独自の世界を作り上げているのはモントリオール響の方です。
 また、一つ特筆しておきたいのが、ピアノです。
 演奏しているアーマス・マイステという人物は、わたしは良く知らなかったのですが、どちらかというとジャズで有名な人のようです。
 このピアノが、非常に柔らかくきれいなのです。
 ペトルーシュカのピアノというと、どうも硬くアタックばかりが目立つ演奏が多い印象があるのですが、マイステのピアノは、響きが豊かで、しかも澄んでいます。
 これは録音もあるのかもしれませんが、アタックがあまり前に出ない丸い音で、前に飛んでくるというより周りに広がる音です。
 その響きがまたデュトワの音楽に良く合い、雰囲気に溶け込んでいるだけでなく、淡く柔らかい雰囲気をさらに高めています。(2006/3/25)


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