I.ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」

指揮ピエール・モントゥー
演奏大交響楽団
録音1929年
カップリングストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」
発売Pearl
CD番号GEMM CD 9329


このCDを聴いた感想です。


 ピエール・モントゥーは言うまでも無く「春の祭典」の初演者です。
 録音も1956年にパリ音楽院管と組んだ物が有名ですが、スタジオ録音に限ってもわたしの知っているだけで3回録音しており、パリ音楽院管との録音は最も後のものです。
 他の2種類は、一つが1951年にボストン響と録音したもの、そして三つ目が今回取り上げる大交響楽団との録音です。
 この録音は、他の二つが1950年代とほとんど同じ時期の録音なのに対して、1929年と飛び抜けて古く、1913年の大騒ぎとなった初演から16年は経っているとはいえ、おそらく最古のものの一つだと思います。
 春の祭典のような編成が大きくてしかもゴチャゴチャと入り組んだ曲にとって、録音の古さはそれだけで大きなハンデです。
 いくらスタジオ録音でも20年代は20年代。30年代の録音と較べてすら明らかに差があります。
 常にパチパチという雑音のおまけつきですし、一つ一つの音は響きの無い痩せた音。なにより聴き取れる音が本当に少ないのです。
 同時に10の動きや音があったとてしても、耳に聞こえてくるのはその中のせいぜい一つや二つです。残りの八つは、何だか背後でウニャウニャやってるなあ、ぐらいにしかわかりません。
 春の祭典を聴ける録音の最低ラインを思いっきり突破しており、とても人に薦められる録音ではありません。モントゥーの演奏を聴くにしても、パリ音楽院管とボストン響の録音があり、これが前の録音から20年の間に解釈が大きく変わったとか言うのならまだしも、驚くぐらい解釈に変化が無いのですから、この大交響楽団との録音は、ほぼ完全に研究者かわたしみたいにな物好き向けでしょう。
 ただ、録音を別にすれば、演奏自体はなかなかのものです。
 各楽器のソロなどは、あまりフランス風には聞こえませんでしたが、それぞれしっかりしており、あまり慣れてないであろう変拍子の中でもメロディーに表情をつけてよく歌っています。
 アンサンブルの方も、録音が悪く細かい部分まで聞こえないのが幸いしてか、意外なほどきちんとまとまっています。わたしはパリ音楽院管との演奏よりこちらの方がむしろ揃っていると感じました。例えば第1部の「春のきざし」での弦合奏によるアクセントが特徴的なリズムなど、少し重くはありますが、メリハリの利いた硬い音で、なかなか切れの良い音楽になっています。
 とはいえ、さすがに曲が進むにつれてだんだん厳しくなっていき、第1部の最後の「大地の踊り」とか第2部になると、だいぶアンサンブルに乱れが出てきます。特に一小節毎に拍子がコロコロ変わる、最後の「いけにえの踊り」はかなり苦しく、なんとか辛うじて付いていっているという感じで、表現やパート同士のアンサンブルまでは手が回らないようでした。まあ、この時代で春の祭典のリズムになんとか食い下がれるというのは、それだけでも十分大したものなのですが。

 ちなみに、なかなかのテクニックだと思われるこのオーケストラは、表記されている名称は大交響楽団という、なんだか単なる一般名詞みたいな名前ですが、実体は、当時モントゥーが設立したばかりのパリ交響楽団の変名のようです。おそらく契約上などで障害があってそのままの名前を使えなかったのだと思います。要はシカゴ響がRCA響と名乗ったのと同じですね。
 そのパリ交響楽団は、1928年にモントゥーが若手を中心メンバーとして設立した新しいオーケストラで、フランス最高と定評があったパリ音楽院管や、その他のコロンヌやパドルー、ラムルーといった当時隆盛を誇ったオーケストラに較べても引けを取らず、野村光一氏の「レコード音楽読本」辺りによると、合奏精度についてはむしろ上回っていたようです。
 ただ、残念なことに結成直後に起こった世界恐慌の影響をもろに受け、1938年に解散。10年間の短命に終わってしまいました。(2005/2/19)


サイトのTopへ戻る