I.ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」

指揮ロリン・マゼール
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音1974年3月
カップリングストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」
発売ポリグラム(DECCA)
CD番号POCL-9972(458 754-2)


このCDを聴いた感想です。


 よく漫画や小説やなんかでは、野球とかのシーンで重要な一球をピッチャーが投げた時にはマウンドからホームに届くまでの間に心理葛藤シーンが長々と語られたりと、ここぞという場面ではそれまでの時間の進み方とは全く違うスローモーションの時間の流れになったりすることがありますが、マゼールの演奏にはそれに近いものを感じました。
 ここぞという場面でのテンポが他の部分とまるで違います。しかもことごとく遅くなっています。
 例えば、第2部の「祖先の呼び出し」の木管と金管のコラール風のファンファーレは急にテンポが半分になったのかと思いたくなるぐらいゆっくりとその上フォルティッシモで堂々と吹いています。
 特に強烈なのが第1部では『春の踊り』の「ドードードーレミファーミーレー(B-B-B-CDesEs-Des-C-)」という引きずるようなメロディーが出てくる部分で、音楽が盛り上がって行くのにしたがってテンポもどんどん遅くなり、最高潮に達する部分ではメロディーを担当するホルンなんかはこれ以上はないというくらいたっぷりとしかもフォルティッシシモぐらいで吼えまくっています。メロディーだけでそんなに強い音で吹いているので、その後を受けつぐトロンボーンとかの「ソーファー」という合いの手はそれ以上盛り上げることなんてできるのだろうかとちょっと心配していましたが、そんな心配は無用でした。トロンボーン等の合いの手は、吼えているホルンよりもさらに強くたっぷりと、しかもグリッサンドの指定を最大限に利用して動きをこれでもかとばかりに目立たせています。もう聴いている方としては大興奮です。
 第2部では「いけにえの賛美」の直前に出てくるティンパニー4台とバスドラム+弦楽器の打撃11連発の部分で、ここは全曲の中でも目立つ部分だけあって他の演奏でも腕も折れよとばかりに叩かせたりといろいろ工夫して強調しているのですが、マゼールのはその中でも屈指のインパクトを誇っています。
 まず直前までの音楽が終って一発目が入るまでに待ちきれず前に突っ込みそうになるぐらい長い間があります。しかもその音はフォルテ五つぐらいのつもりで力の限り叩かせている点は同じとしても、テンポが異常に遅くなっているため一発一発に余韻が残り、ますます強調されて聞こえるのです。
 他の演奏が『ダン、ダン、ダン、ダン……』ぐらいとしたら、マゼールのは『ドーン、ドーン、ドーン……』といった感じですか。聞いている途中でテンポの感覚が麻痺してきそうです。
 マゼールの演奏はそういった目立つ部分以外にもいろいろ特徴があります。
 一つは楽器同士のバランスです。メロディーだけ強調するのではなく他の演奏ではあまり表に出てこないような、メロディーに対する合いの手となる短い動きを強調しています。こういう普段聞き慣れない動きやリズムが目立つことで曲の印象もガラリと変わり非常に新鮮に聞こえます。
 他にも、これはウィーン・フィルらしいというか、アタックに重量感があります。
 その分、硬さや鋭さという点では弱いのですが、重量の載った一撃というのもなかなか強烈で、ボディーブローのように腹に響き後に引く衝撃を受けます。
 この演奏は以前から「凄いらしい」という噂は聞いていたので、ある程度期待して聴いたのですが、いやまさかここまでいろいろやってくれた演奏だとは思いませんでした。(2004/6/12)