I.ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」

指揮カレル・アンチェル
演奏チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
録音1963年
カップリングストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」
「Karel Ancerl gold edition vol.5」の一部
発売SUPRAPHON
CD番号SU 3665-2 011


このCDを聴いた感想です。


 それぞれの楽器の主張が激しい、メリハリの利いた演奏です。
 楽器間の分離が良いクリアな録音ということもあって、全体としてのまとまった響きよりも、各々のソロや楽器の個性がはっきりと出ています。
 木管楽器なんかは、フランスのオーケストラかと勘違いしそうになるぐらいビブラートをたっぷりとかけて思いっきり歌わせていますが、特にクラリネットが強烈です。
 クラリネット以外のフルートやオーボエやファゴットに関しては、ビブラートをかけていてもそれほど珍しくはないのですが、クラリネットだけは「春の祭典」に限らず、普通はビブラートは少な目で、強くかけるのは幻想交響曲の第5楽章のような特殊な効果を出す場合ぐらいなものです。
 ところが、この演奏ではクラリネットに、それこそ幻想交響曲の第5楽章並みの強いビブラートをかけてメロディーを吹かせています。
 こういうビブラートは、クーベリックとの「わが祖国」でもやっているので、「アンチェルの」というよりもチェコ・フィルの特徴なのかもしれませんが、このビブラートがまた春の祭典によくあっているのです。
 ビブラートがあまりにも強いため、「エスプリ」とか「小粋」とかいったしゃれた感じではなく、どぎつく、悪く言えばいやらしさがあります。
 しかし、これが春の祭典のバーバリズムや怪しい宗教のようないかがわしさ、胡散臭さといった雰囲気を見事なまでに表しているのです。
 まさに、その場で行われていることが、明らかにマトモではないと感じさせる禍々しさがそのまま伝わってきます。
 一方、金管と打楽器はパリッとした乾いた音色です。
 明るくなくむしろ暗めといえるぐらいの音色なのですが、陰鬱ではなく、感情を排して、どちらかというと金属的に近い、硬い音です。
 これが叩きつけられるようにパシッと出てくるため音にキレがあり、しかも無機的な分、直前までの雰囲気を断ち切るようなところもあり、これはもう暴力的と言っても良いかもしれません。
 特に打楽器は金管楽器よりさらに暴力的で、もともとバランス的に強めというのもあるのですが、第1部終盤(賢人の行列)で6拍子で動いているところに、そのリズムを壊すかのように4拍子で入ってくる拍子木(Une rape Guero)が妙に強調されていたり、ティンパニーは、重さも感じさせないような『タンッ』という乾いた硬い音で、それが第2部中盤(犠牲の法悦)で、8分音符で連打される部分なんかは、乾いた音が逆にアフリカかなにかの呪術師を連想させ、妙に不気味な感じがあります。

 さて、この演奏で一つ特筆しておきたいのが、第2部終盤の「祖先の呼び出し」、つまり金管が荘重なコラールのようなものをフォルテで演奏する部分です。
 アンチェルは、この部分で急にテンポを落とし、他の演奏の半分くらいのテンポで演奏しています。
 楽譜上の指定では、直前までの譜面上の八分音符とこの部分での四分音符を同じ長さで演奏するように(つまり倍のテンポ)書いてあるのですが、指定通りではなく同じテンポで演奏したら、ちょうどこうなるかもしれません。
 まさかアンチェルがその指定を見落としたとも思えないので故意だと思うのですが、結果としては、ただでさえ荘重なコラールがますます荘重になり、それまでの流れからは完全に浮き上がった存在になっています。
 ほとんど、曲のクライマックスは最後の「生贄の踊り」ではなく、この部分ではないかと思えてくるほど圧倒的で、実はアンチェルも意外とそこが狙い……な訳はまさか無いですよね(笑)(2003/12/27)