指揮 | リッカルド・ムーティ |
演奏 | フィラデルフィア管弦楽団 |
録音 | 1978年10月 |
カップリング | ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」 |
販売 | EMI |
CD番号 | CDM 7 64516 2 |
とにかく『抜け』が良い演奏だと感じました。 楽器の一つ一つがちゃんと鳴り切っているのです。 それはフォルテの部分はもちろんですが、ピアノの部分でもしっかりとした音が出ています。 そのため、音色は決して汚くなく、むしろクリアな方なのにも関わらず、春の祭典らしい野蛮さが十分に表現されています。 特にその特長がもっとも端的に表れているのがトランペットです。 これがアメリカのオーケストラの実力なのでしょうか。 その音は、オーケストラが大音響で鳴らしているフォルティッシモの壁を切り裂いて、わたしたちの耳にダイレクトに飛び込んできます。 どんなに周りが分厚い音の壁を作ろうと必ずそれを突き破ってきます。 しかもそれでいて、音は濁っておらず、耳障りのしない華やかな音色なのです。 さらに、それに加えて抜群の安定感があります。 この曲は、トランペットにハイトーンが連続するので、演奏によっては、トランペットがだんだん苦しげな音色になっていくのが、丸わかりのものもありますが、この演奏のトランペットは全くそんな素振りを見せません。 いくら高音が続こうが、まるで汗一つかいていないかのように、涼しい顔で最初の華やかな音質をずっと保っています。 もちろん、録音によるつなぎによるマジックはあるのでしょうが、ほとんど超人かなにかに思えてくるほどです(笑) さらに、この音抜けの良いという印象を強めているのが録音です。 1978年というと、アナログ最晩期の録音という事になるのでしょうが、個々の楽器の音はかなり鮮明に録音されています。 そのため、フォルテになっても音がごちゃまぜになって聞こえたりせず、それぞれの楽器が実力を遺憾無く発揮しているのが手に取るようによく分かるのです。 もちろん、一つ一つの楽器の音が鮮明に聞こえるといっても、まるで楽器一つに対して一つマイクをつけたみたいに変にピックアップされているわけではありませんよ。ちゃんと全体ではまとまって一体となって聞こえてきます。 ただ、この録音で一つだけ惜しいのは、最強音になったときに音が若干割れがちになるということでしょうね。これさえちゃんとマイクに収めきれていればもっと良かったのですが…… あと、この演奏で、個人的に好みなのは、パーカッションがかなり強めに入っている点です。 特に、ピアノの部分でのリズムを刻んでいる部分がしっかり聞こえることで、音楽の流れに一本の芯ができ、端々にまで緊張感を行き渡らせています。 ムーティというと、以前書いたマンフレッド交響曲がかなり良かったのにもかかわらず、未だに「なんだか、ちょっとなぁ…」という先入観があったのですが、この「春の祭典」を聴いて、改めてムーティの凄さを再認識しました。(2002/6/7) |