橋本國彦 交響曲第1番 二調

指揮沼尻竜典
演奏東京都交響楽団
録音2001年7月24〜26日
カップリング橋本國彦 交響組曲「天女と漁夫」
発売アイヴィー(NAXOS)
CD番号8.555881J


このCDを聴いた感想です。


 わたしはこのCDをずっと待ち望んでいました。
 初めて、わたしがこの曲を聴いたのは、95年頃、アマチュアの某オーケストラの演奏会での事でしたが、聴いた瞬間からこの曲が好きになりました。
 特に、特徴のある第2楽章なんかは、覚えやすいメロディーということもあり、すぐに口に出して歌えるほど印象に残りました。
 さらには、当時『橋本國彦』という作曲者の名前も初耳でしたが、すぐに覚えてしまったぐらいです。(……実は、某文相と名前が酷似していたという理由もありますが(汗))
 当然、次の日からこの曲のCDを手に入れるべくCD屋を巡ったのですが、探せど探せど見つかりません。もちろん、今回のCDが世界初録音なのですから、見つかる筈が無いのですが、当時はそんな事は全く知らなかったため、かなり必死になって探し回りました。
 それから見つからないまま月日が流れ、これだけ出ないのだから、この曲をCDで聴く事は無理だとほとんど諦めていました。
 そんなある日(といっても昨年(2001)末か今年頭ぐらいだと思いますが)、以前から注目していた、NAXOSの『日本作曲家選輯』シリーズ(以前感想を書いた、近衛秀麿編曲の『越天楽』もこのシリーズの一曲です)の、近い将来発売する予定で既に録音済みの曲の一覧の中に、この曲の名前を見つけたのです。
 その瞬間は、あまりの嬉しさに、興奮してCD屋の店頭という事を忘れて、思わず声を上げそうになりました。
 それからというもの、一日千秋の想いで待ち続けて、ついに発売されたのが今回取り上げたCDというわけです。
 もちろん、発売と同時に買って来て、早速聴いてみたのですが……
 ………
 ……
 …
 いやー、人間の記憶って、恐ろしくいい加減なものですね(笑)
 あれだけしっかりと覚えていると思っていた第2楽章、もちろんメロディーまでは覚えていないのは自覚していましたが、いくらなんでも曲の雰囲気だけは忘れていないだろうと信じていただけに、耳に聞こえる音楽が、記憶と全く違っていたのは結構ショックでした。
 正直言って、実は、このCDを初めて聴いた時は、「わたしが前に演奏会で聴いたのは、この曲じゃない!」と本気で思ったぐらいですから(笑)
 ……その後、以前聴いた時のオーケストラの過去の演奏記録まで調べたのですが、やっぱりその時に聴いた曲は、この交響曲第1番でした(汗)

 記憶と違っていたのは残念ですが、改めて聴きなおしてみると、やはりこの曲は、日本的な雰囲気にみちた良い曲です。
 といっても、和風一本槍ではなく、かなり西洋風な雰囲気と手法を感じさせる部分も少なくなく、この二つが融合するというより、モザイクのように、割と明確な違いを見せながら交互に表れてきます。
 つまり、和風はとことん和風に、反対に西洋風なところはかなり和風色が薄まっています。トータルではかなり和風色に傾いていますが。
 ただ、この和風の部分の雰囲気は非常に素晴らしいものがあります。
 例えば、第1楽章なんかは曲の冒頭から古(いにしえ)の時代を髣髴させるかのようなゆったりとした雄大な雰囲気が感じられ、まるで、空高い所から、雄大な富士山をバックに鷹が大空を悠然と舞い飛ぶ様子を見るような思いです。(……なんだか、これに茄子をプラスしたら丸っきり初夢のような取り合わせですが、さすがに茄子が出てくるような雰囲気ではありません(笑))
 また、わたしのイメージと全く違っていた第2楽章ですが、沖縄音階に基づいたメロディーの主部に速いメロディーを中心とした中間部が挟まれた三部形式(推定)で、この沖縄音階のメロディーは、第1楽章の雄大さとは一転して、南国っぽい気だるさにゆったり沈み込むような雰囲気があり、より等身大に近づいた身近な印象を受けます。
 一方、中間部のテンポが速い部分は、時代劇に出てくる江戸時代の下町のような活気があり、その賑やかさが主部の気だるさと面白い対比になっています。
 終楽章である第3楽章は、変奏曲の形式ということもあり、手法的にはかなり西洋風の雰囲気が強くなっています。
 変奏の基になるテーマ自体は、日本風のメロディーで、なんでも『紀元節』という戦前は非常に有名だった旋律らしいのですが、残念ながらわたしは今までに聞いたことがありませんでした。
 変奏の一つ一つも、なかなか面白いのですが、やはり特筆すべきなのは、最終変奏にして交響曲全体の締め括りでもあるフーガです。
 ここにおいて、今までモザイク状であった和風と西洋風がついに融合して調和した姿を見ることが出来ます。
 日本風のメロディーが、フーガという最も西洋の色が濃く感じられる手法によって、どんどん積み上げられて行って、最後には巨大な音楽に至る様は、圧倒されるような迫力があります。

 それにしても、この演奏がこの曲の初録音というのには、本当に驚かされました。
 いろいろと不幸な事情が絡んでいたとはいえ、まさか今までに録音された事が一度も無かったとは……
 この曲は幸いにして約60年振りに陽の目を見ましたが、おそらく他にも埋もれてしまった曲が結構あるのではないかと思います。
 NAXOSのシリーズには、そういった点でも今後を期待しています。(2002/10/18)


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