H.ベルリオーズ 幻想交響曲

指揮ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー
演奏レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
録音1971年9月9日
発売日本クラウン(BBC Radio classics)
CD番号CRCB-6027


このCDを聴いた感想です。


 あまりにも第4楽章と第5楽章の印象が強烈過ぎて、前半の三つの楽章の印象がどこかへ消し飛んでしまいました。
 後半二つの楽章の印象は、端的にいうなら『ロシアン・パワー炸裂』といったところでしょうか。
『重い』とか『力強い』とか云々以前に、全てを粉砕するような破壊力が感じられます。
 その要因の筆頭は、やはり金管です。
 いかにもロシア的というべきか、演奏しているのがレニングラード・フィルなのに、まるで国立文化省響のように、ベーベーという割れまくった金属的な平たい音です。
 そんな音が、フォルテの部分では、何の遠慮会釈なく全てをかき消すようにこれでもかとばかりに吹き鳴らされるのです。
 しかも、そのパワー溢れる音は、普通の人間ならとても長くは吹き続けられそうに無いほどの強さなのに、平然と一片の不安定さも見せずに最後まで吹ききっています。
 とても人間技ではありません。きっと全員、熊のような体格をしているとしか思えません(笑)
 さらに金管以外も負けていません。
 ティンパニーなんて、ヘッド(表皮)が裂けるんじゃないかと思えるほどの勢いで、ぶっ叩いていますし、弦楽器も金管に対抗するかのように力強く弾きまくっています。
 たぶん金属でつくったスチール弦を使っているのでしょうが、もし腸で作ったガット弦を使っていたら、たぶん1分も持たずに全ての弦が切れて演奏不能になっていたのではないかと思えてくるほどです。
 当然、曲の終わりは、それまでよりもさらに一段階アップして完全全開フルパワーで演奏しています。
 テンポを速めたりしていないのに、恐ろしいほどの盛り上がりで、最後の和音が消えるか消えないかの内に、大歓声が沸き起こるのもよくわかります。
 その上、この演奏の凄い点は、この炸裂するパワーが決して勢いに任せたものではなく、ちゃんとコントロールの下にある点です。
 フォルテやフォルティッシモでいくらパワー全開で演奏しようとも、ピアノになった瞬間、嘘のようにピタッと静かになります。そしてフォルテに入るとまた一斉に爆発するのです。
 これで、常に緊張感が保たれアンサンブルもほとんど乱れないのですから、ただただ感心するばかりです。
 一方、印象が薄くなってしまった前半の三つの楽章も、取り出して聞けば、ちゃんと聴き応えのある演奏です。
 これは全5楽章通じて言えるのですが、とにかく明るく屈託がありません。
 曲の内容は、幻覚やら狂気がテーマになっているはずなのですが、そんないかがわしい雰囲気は綺麗さっぱり消え去っています。
 第1楽章は、フォルテの部分で後の第4・5楽章のパワーの片鱗を感じさせますが、狂気とは全く方向性の違う単純明快な世界ですし、ピアノの部分も緊張感こそあれ、狂気のように破綻した雰囲気はありません。
 第3楽章も、本当に田園らしいリラックスした雰囲気で、恋人が現れて消えても、現れれば嬉しいし、消えてもそれは一時的な別れといった程度で、とてもじゃないですが、恋人がいなくなってしまいそうな暗い予感とは無縁の世界です。
 第2楽章に至っては、明るく上流階級らしいスマートで優雅な世界で、恋人の姿が見えても、心に動揺は無く、あくまでも優しく清々しさに満ちています。
 この楽章が終わった瞬間などは、まるでスポーツで一汗流した後のような爽やかな気分で、思わず「ああ、いい汗かいた」と言いたくなってきます。
 狂気を排除してここまで健康的になると、これはこれで幻想交響曲の新たな一面が見えて楽しいものです。(2004/2/28)


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