H.アンドリーセン Magna res est amor

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独唱ソプラノ:ジョー・ヴィンセント
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1940年4月9日
販売及び
CD番号
AUDIOPHILE(APL 101.541)
TELDEC(243 723-2)


このCDを聴いた感想です。


 タイトルの「Magna res est amor」は、英訳では「Love is a great thing」。わたしは語学力に乏しいので正確な訳ではないかもしれませんが、英訳から判断するに恐らく神の愛の偉大さについて歌った曲なのでしょう。
 曲の雰囲気も正にそういう感じで、荘重な伴奏を伴って、ソプラノがゆったりとしたテンポで美しく歌い上げていきます。
 全体的にレクイエムを髣髴させるような落ち着いた雰囲気があり、曲調が明るくなる部分でも熱気や開放性はほとんど感じられず、秋の空のような清々しさと一抹の寂しさが入り混じった静的な明るさです。
 強弱のダイナミクスも結構差があるのですが、フォルテの部分でも絶叫するような激しさは無く、どこまで行っても穏やかさと優しさに包まれています。ましてやピアノの部分に至っては非常に繊細で、まるでちょっとでも触れたらすぐにでも崩れてしまう砂の城を扱っているかのような細心さがあります。
 独唱のジョー・ヴィンセントは、こういう曲にしては割と激しく感情を込めて歌っているのですが、過剰な表情付けをしていないため、ちゃんと雰囲気を保っています。
 さらに、これには、ジョー・ヴィンセントの声の懐が深いという事も大きくプラスに働いています。
 声に深みがあるので、フォルテになっても落ち着いた雰囲気があるのです。
 一方、伴奏のメンゲルベルクとコンセルトヘボウ管については、まず録音状態で大きくハンデを負っています。
 歌曲という性格上、主役としてマイクにキチンと拾われているのは歌手のヴィンセントの方で、脇役のオーケストラは背後に埋没してしまい、かなり意識して聴かないと細かい部分まで聴き取る事ができません。
 それでも、貧しい録音ながら随所にメンゲルベルクの特徴が見え隠れしています。
 まずテンポ設定からして、基本はゆったりとしたテンポながらも、一定のテンポでは無く、大きく伸び縮みさせています。ただ、その変化が急激ではなく流れに沿ったものであるため、荘重な雰囲気はそのままに、より柔軟性がある音楽になっています。
 それに加えて、ポルタメントが高い効果を上げています。
 曲が曲だけに、このポルタメントの多用は、人によって好き嫌いが大きく分かれるかもしれませんが、わたしはポルタメントによって、より穏やかさや神秘的な雰囲気が高まったように感じました。
 特に、高い音までクレッシェンドして昇りきった直後に、スルッとポルタメントをして一段下がっていくところなんて、ドキッとするほどの美しさがあります。

 この曲は、「野ばら」や「砂山」のように、先にThomas a Kempisの詞があり、それにアンドリーセンが曲を付けたもののようで、同じ詞でアンドリーセン以外の曲もあるようです。
 また、この演奏は、伴奏しているのはもちろんオーケストラなのですが、オーケストラ以外にオルガンによる伴奏のバージョンもあり、両方とも同じくらい録音数があります。(といっても、そもそも絶対数が少ないのですが(笑))
 ちなみに、どちらのバージョンもアンドリーセン本人の作曲です。

 ついでに、作曲者のヘンドリク・アンドリーセンについても、少し書いておきましょう。
 この人、生まれたのも1892年と結構遅い方なんですが、88歳と長生きしたため、亡くなったのは1981年(誕生日前に亡くなったため88歳)。今(2002年)からほんの20年ぐらい前に過ぎません。
 そう、このアンドリーセンは、メンゲルベルクが曲を録音した事がある作曲家の中の最後の生き残りなのです。
 まあ、生き残り云々は余談ですが、アンドリーセンは、CDのリーフレットの解説等を総合すると、オランダの中でも最も保守的な傾向の強い作曲家の一人だったようです。
 そのため、オランダ国外では知名度はさっぱり上がらなかったのですが、国内での評価は高く、フランクの伝統を受け継ぐ作曲家及びオルガニストとして、生まれ故郷のハーレム(1913〜)やユトレヒト(1934〜)のオルガン奏者を務めたり、同じくユトレヒトとハーグの音楽院の理事を経て、両方の音楽院の院長となり(同時ではありませんが(ユトレヒト1937、ハーグ1949〜52))、最後は、ナイメヘン・カトリック大学の教授(1952〜63)となりました。
 また、兄のウィレムや、息子のルイも作曲家で(ちなみにウィレムとヘンドリクの父親はオルガン奏者でした)、正しく音楽一家といったところでしょう。(2002/11/8)


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