R.ロッシーニ 歌劇「ウィリアム・テル」序曲

指揮ハンス・クナッパーツブッシュ
演奏バイエルン国立歌劇場管弦楽団
録音1928年
カップリングワーグナー 歌劇「リエンツィ」序曲 他
「HANS KNAPPERTSBUSCH Early Recordings 1928-1941」の一部
発売archiphon(Homocord)
CD番号ARC-110/111


このCDを聴いた感想です。


 弦楽器の良さが光った演奏です。
 まずは、夜明けの部分でのチェロ合奏。豊かな表情が良く伝わってきます。
 夜明けといっても、靄のかかったような幻想的な雰囲気ではなく、昔の録音にありがちな楽器に近いマイク設定なのか、旋律を担当する個々の楽器がくっきりと分離していて、非常に明確に聞こえます。その個々の楽器、といっても全てチェロですが、情感豊かに歌っています。もちろん夜明けの描写ですから露骨には歌いすぎず静かな雰囲気で、ほの暗くいくぶん寂しげな情景が、時間が経つにつれてしだいに明るく気温も上がっていく繊細な変化が、まるで手に取るように間近に感じられます。
 また、嵐などでは、激しい部分で表れるヴァイオリンなどの、横なぐりの雨のような高音から刻みで次第に下がってくる音型は鋭く締まっています。音の粒も揃っていて、弦楽器内でのアンサンブルの技術の高さはなかなかのもののようです。
 最後のスイス独立軍の行進では、ただ揃っているだけでなく、スピード感や激しさもかなりもので、勢いがあります。この行進の部分は、管楽器があまり聞こえてこないこともあり、華やかというより、激しさの方が表に出ていて、聞いていると思わず手に力が入ってしまうような緊張感の高い演奏になっています。
 その一方で、弦楽器の良さに比べて、管楽器はどうも今ひとつのように感じられました。
 ただ、原因の一つは、演奏者というより録音にあります。
 弦楽器の音がマイクに近く生々しく聞こえるのに対して、管楽器はどうしても遠いのか、牧歌などでの木管楽器を除いて、フォルテになってもあまりよく聞こえません。
 特に金管楽器はひどく、嵐の部分などでは、背後で鳴っているのはわかるのですが、動きはあまりはっきりとせずモワモワとしているだけです。
 さらに、テンポも妙に前のめりで、先走って前に突っ込んでしまっています。どうも聴いていて落ち着きません。
 牧歌の木管楽器は、そう悪くは無いと思うのですが、夜明けの部分などの弦楽器の豊かな表情を先に聞いてしまったために、表情を抑えすぎて淡々と吹いているように聞こえるのです。
 良くも悪くも、録音の古さが弦と管の印象を大きく左右しています。
 1928年の録音ということを考えると、雑音なども含めて録音状態は、まあ並だと思いますが、なにぶん古いだけにどうしても影響が大きくなります。
 ところで、この「ウィリアム・テル」序曲は、たいてい11分ぐらいの演奏時間なのですが、この演奏では9分弱とたいへん短くなっています。
 その理由は、テンポがむちゃくちゃ速い……わけでは全然無く、あちこちでカットをしているからです。カットは、夜明け以外の全ての部分に及んでいます。大きく何十小節もカットして曲が一気にワープするというのは無いのですが、あっちで数小節、少しおいてまた数小節といった具合に、細かく間引いています。
 できるだけ不自然にならないようにカットしているのだと思いますが、それでもやはりあちこちに不自然なつなぎが出ています。それだけ妙なカットをしている理由は、指揮者であるクナッパーツブッシュの意向という可能性は有りますが、わたしは、録音時間の制約によるものだと思います。
 当時の録音では、後のLPレコードみたいに長時間の曲を1枚の盤に録音する、なんてことはできず、4〜6分録音できる盤を何枚か使って録音していました。
 わたしも録音史に詳しいわけではありませんが、1920年代では1枚に5分くらいが限度だったのではないかと思います。
 そうすると、演奏時間が11分では2枚には収まらず、3枚になってしまい不経済です。そのためカットしてまで無理やり9分以内に縮めたのではないでしょうか。
 あくまでも推測にすぎませんが、不自然なカットを見ていると、どうしてもそう思えてきます。(2009/3/14)


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