R.ロッシーニ 歌劇「ウィリアム・テル」序曲

指揮ポール・パレー
演奏デトロイト交響楽団
録音1959年1月16日
カップリングマイアベーア 戴冠式行進曲 他
発売MERCURY
CD番号434 332-2


このCDを聴いた感想です。


 皆様は、この曲にまつわる奇怪な噂をご存知でしょうか?
 最近はほとんど耳にしませんが、わたしが学生の頃、この曲についてある噂がまことしやかに流れていました。
 その噂は、歌劇の粗筋とか序曲の音楽的な構成といった曲の内容とは一切関係がありません。
 演奏に関する事です。
 その噂とは……
『この曲を演奏すると、そのオーケストラに不幸な事が起こる』
 というものなのです。
 具体的には、『オーケストラが解散する』とか『関係者が死亡する』といった類です。
 ほとんどツタンカーメンの呪い並みなのですが、これがまたもっともらしいことに、それぞれちゃんと具体例が挙げられているのです。
 オーケストラが解散する方は、アメリカで戦前から戦後にかけてその名を轟かせた某有名団体を筆頭にいくつか。関係者が死亡する方は、日本の某団体……って、さすがにこれ以上は書けませんが。
 こうやって具体例を挙げられると、なんだか本当に不幸を呼ぶ曲のように思えてきます。
 しかし、よく考えてみると(別によく考えてみるほどでもありませんが)、「ウィリアム・テル」序曲を演奏するたび不幸が起こるのであれば、世界中のほとんどのオーケストラが解散する羽目になってしまいます。
 もちろん現実には、そんなことにはなっていないので、たまたま偶然が重なったのを無理矢理こじつけた、単なる都市伝説というわけです。
 もっともわたしのある友人に言わせると「いや、伝説はまだ生きている。実は不幸が起こるには「ウィリアム・テル」序曲ともう一つ何か特定の曲を組み合わせる事が必要で、他のオーケストラで不幸が起こっていないのは、その組み合わせを注意深く避けているからだ」と主張していましたが(笑)
 それでも、わたしが学生の頃は、この噂は結構流布していて、大学のオーケストラの演奏会の曲目を決める際に、「ウィリアム・テル」序曲を候補から落とす理由として、本気か冗談かわかりませんが、この噂を持ち出した人がいましたし、それを聞いた他の選考委員にも「ああ、そういえば」と頷いていた人が何人かいた覚えがあります(ちなみに、わたしも頷いた一人だったりしますが(笑))
 結局、「ウィリアム・テル」序曲は候補から落ちてしまいました。
 ただ、念のために書いておきますが、候補から落ちたのは噂のせいではありません。
 冒頭のチェロの五重奏に、チェロパートから「頼むから勘弁してくれ」という強い主張があったのが本当の理由です。
 そりゃたしかに、怪しげな噂よりも、弾けるかどうかの問題の方がよっぽど切実というものです(笑)

 さて演奏の方ですが、まずはそのチェロの合奏と、第3部の「羊飼いの角笛」のイングリッシュ・ホルンを中心としたソロに惹かれました。
 録音が、かなり楽器の近くで音を拾っているように聞こえることもあって、ソロの音が生々しく、また表情も目の前で語りかけてくれているようによくわかります。
 その歌わせ方も、あまり力いっぱいとか精魂込めてといった激しいものではなく、力を軽く抜いて、それでいて一つ一つの音まで神経を行き届かせて丁寧にやさしく語りかけるように歌わせています。
 明るいながらもリラックスした、晴れ晴れとした気分になってくるソロです。
 一方、第2部の「嵐」と第4部の「スイス軍隊の行進曲」は、軽さと引き締まった響きが印象的です。
「嵐」は、激しい曲調なのですが、金管は抑え気味にしているため、あまり暴力的な荒々しさはありません。
 その代わり弦楽器はスピードと硬さがあり、激しく力を入れて弾いていながらも、音は引き締まって整然としています。
 予測できない自然の「嵐」というより、計画的な人工降雨といった雰囲気です。
 ただ、これはこれで次々と故意に畳み掛けてくるような怖さがあり、自然の嵐とはまた一味違う迫力があります。
 第4部の「スイス軍隊の行進曲」の方は、なんといっても軽さが光ります。
 この軽さは、フラフラしているとか落ち着いていないといったマイナスのイメージの軽さではなく、身軽で素早いという意味です。
 バランスとしては、低音も結構しっかり出ているのですが、腰を下ろしてしまったような鈍重さは感じられません。
 おそらく音にスピードとキレがあり、さらに短く切っているため全体の響きも硬く引き締まり、さらに生き生きとして躍動感に溢れているため、大きい割りに剽悍な豹のように身軽なのではないかと思います。
 特に弦楽器は高音から低音に至るまで、どんな細かい音符だろうと、弱いピアノから強いフォルテまで一貫した硬い締まった音で、それが軍隊のように整然と揃って動く様子は、フットワークは軽いのに非常に力強く、全てを跳ね飛ばして突っ走っていくような勢いと迫力を存分に見せつけてくれます。(2004/2/20)


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