R.ロッシーニ 歌劇「絹のはしご」序曲

指揮アルトゥーロ・トスカニーニ
演奏BBC交響楽団
録音1938年6月13日
カップリングベートーヴェン 交響曲第1番 他
「ARTURO TOSCANINI CONDUCTS THE BBC SYMPHONY ORCHESTRA」の一部
発売Biddulph(HMV)
CD番号WHL 008-9


このCDを聴いた感想です。


 トスカニーニの録音は、ニューヨーク・フィル響やNBC響などのアメリカのオーケストラを指揮したものが最も多く残っています。後半生は活動の拠点がニューヨークでしたから、これは当然でしょう。そして、おそらく次に多いのがイギリスのオーケストラとの録音だと思います。イギリスのオーケストラとの録音というと、晩年のフィルハーモニア管とのブラームス・チクルスがよく知られていますが、それよりもずっと前の1930年代に、BBC交響楽団を指揮して、少なからぬ数の録音を残しています。この「絹のはしご」序曲も一連の録音の一つです。
 おそらく、トスカニーニがBBC響を指揮する機会は、それほど多くは無かったでしょうから、自分の音楽をオーケストラに教えるためのリハーサルは限られた回数しかなかったはずです。それでもこの演奏からは、私がトスカニーニらしさと思う、鋭く進むテンポ感とメロディーを良く歌っているのがしっかりと聞き取れます。
 テンポ感は、まるで良く訓練された軍隊の突撃ように一糸乱れず突っ込んできます。単なる行軍のような同じテンポでずっと起伏の無い音楽が続くのではなく、かといって高揚するのはいいものの指揮系統が無く各自勝手に突っ込んでくるような感情の赴くままに煽った音楽とも違います。全体が隅々まで統制されて一体となって高揚していくのです。ロッシーニ特有の長いクレッシェンドに合わせて音楽を盛り上げるためにテンポを速めていきますが、劇的に盛り上がるようにと後半から急激にテンポ上げたりせず、直線のグラフに沿っているように、一段階ずつ着実にテンポアップしていきます。このテンポアップの仕方は、急激なテンポアップと違って爆発的な感情の高揚はありませんが、どっしりと安定した土台の上にしっかりとした高揚が感じられます。ロケットの発射とピラミッドみたいなもので、一瞬で高みまで達するものの不安定さを伴うものに対して、安定しているためにいくらでも高く積み上げられ、しかもその高揚が長く続きます。
 さらに、メロディーはよく歌い込まれています。
 中盤の速いテンポになってから、長い音の伸ばしから始まるメロディーがよく登場しますが、この始まりの長い音の歌い方は特に印象に残りました。音の出だしは柔らかく、しかし重さはよく乗っていて、またそれを引っ張らず綺麗に抜いて軽くして次の音に入っていきます。この歌い方がとても魅力的なのです。録音が古いので細かい部分までは録音に入っていないかもしれませんが、それでもニュアンスは伝わってきます。
 また、この曲はオーボエに目立つけれども難しいソロがあることでも有名です。
 この演奏のオーボエは、時代が古い時代ということもあって、現在のオーボエ奏者に較べるとテクニックではちょっと厳しい部分もあちこち見られます。しかし、何というか、いかにも「ああ、がんばってるなあ」という感じで、暖かく見守りたくなります。それに、現在に較べて厳しいといっても別に下手なわけではありませんよ。難関の、短い音での速い動きもクリアに吹いています。ただ、スタッカートをかなり短めにしているため動きがちょっとギクシャクしていかにも一所懸命に吹いているように聞こえるのです。遅いテンポの部分のソロなどはメロディーを大きくとって長いスパンで歌っていて、素直に上手いと感じられました。
 録音状態は、1930年代の録音ですから先ほども書いたとおり細かいところまではとても聞き取れないようなものです。それでも同時代の中ではむしろ良い方だと思います。わたしが持っているCDはBiddulphのもので、BiddulphのCDは今までの印象としては、雑音は少ないものの必要な響きまで消してしまいやたらと乾燥した貧弱な響きというものでした。このCDは、雑音が少ないのは他と一緒ですが、音の方は貧弱ではなく十分に生々しく、聞いていてかなり満足できるものでした。(2008/7/12)


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