G.プッチーニ ある晴れた日に 〜歌劇「蝶々夫人」より〜

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独唱ソプラノ:グレイス・ムーア
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1936年6月23日
発売及び
CD番号
AUDIOPHILE(APL 101.526)
Q DISC(97016)
ARCHIVE DOCUMENTS(ADCD.109)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクのプッチーニは非常に珍しく、この一曲しか録音が残っていません。この貴重な録音によってメンゲルベルクがプッチーニをどう演奏していたのかその一端でも伺えるかもと期待して聴いてみたら、中身はほとんど「ザ・グレイス・ムーア・ワンマンショー」というオチでした。
 1936年のライブ録音ですからもうこれはしかたがないのですが、独唱はまだ鮮明に聞こえるものの、伴奏のオーケストラは霧の向こうにかすんでいて、一部目立つ部分だけなんとか聞き取れるぐらいです。こうなると、もうメンゲルベルクを聞くというよりグレイス・ムーアの独唱を聞くための録音ですね。
 そのグレイス・ムーアは、映画界でも女優として活躍しており、歌手としてはメトロポリタン歌劇場をメインの活動の場としていました。メトロポリタンで歌っている歌手が、なぜにアムステルダムでしかも歌劇とそれほど関係が無いメンゲルベルクと共演しているかというのも、ちょっと謎ですが。まあメンゲルベルクもこの演奏会の6年ほど前まではニューヨーク・フィル響の常任でしたから、その辺りで何か縁があったのかもしれません。
 そのグレイス・ムーアの歌い方は、案外メンゲルベルクと共通する点があります。
 全体を犠牲にしても細部に力を入れているのです。
 メロディー一つにしても、全体の流れを考えて大きく歌うのではなく、とにかく目の前の一音に全てを集中して音を出す。そしてその音から次の音へのつながりを大事にする。この繰り返しで音楽を進めています。一つ一つの音をしっかりと歌わせるために、当然テンポの揺れも非常に大きく、本来こういう歌い方が得意な伴奏のメンゲルベルクさえ、完全にはついて行き切れていないぐらいです。
 こういう歌い方なのでメロディーのとしての流れは悪く、あちこちで分断されているのですが、その代わり、一音一音に対する力の入り方は半端ではありません。
 音の伸ばし方や、ポルタメント気味に次の音に移ったりするところなど、細部だけ注目するとその神経の行き届き方には目を見張らされました。その一方で全体を俯瞰すると……まあ、何かを成し遂げるためにはどうしても犠牲が必要ですね。
 独唱に較べ、伴奏のメンゲルベルクはどうしても影が薄くなりがちですが、それでも部分的には大きく存在感を示しています。
 特にクライマックスの、独唱が頂点で強く真っ直ぐ音を伸ばしているバックで、オーケストラだけが冒頭の有名なメロディーを演奏する部分の力強さは、一瞬古い録音ということを忘れてしまうぐらい迫力がありました。
 ティンパニーが少し強めに入っていて、それが芯としてしっかりと役割を果たしています。
 クライマックス以外は、ほぼ存在しないも同然ですが、その中では、たまに登場するヴァイオリンソロが雰囲気がありました。
 ポルタメントをかけて甘く柔らかいのに明るい部分でも淡く、寂寥感さえ感じられるところが悲しい歌詞の内容とよく合っています。(2005/10/22)


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