G.マーラー 交響曲第9番

指揮クルト・マズア
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック
録音1994年4月
発売TELDEC
CD番号4509-90882-2


このCDを聴いた感想です。


 マズアという指揮者は、個性が無いとかつまらないとか言われ、とりわけ熱心な音楽ファンからの評判は良くありません。
 それでも、長年常任を務めてきたゲヴァントハウス管との演奏については、多少なりとも評価する人もいなくもないのですが、1991年から常任についた(〜2002年)ニューヨーク・フィルとの演奏はとかく評判が悪く、 高い評価などほとんど見かけません。
 ごくごく稀に、褒めてある文章を見つけても、逆に何かの間違いではないかと疑ってしまいそうになるほどです。
 でも、わたしは、十分個性的だと思いますし、非常に高く評価しています。

 わたしが、マズアとニューヨーク・フィルとのコンビで、もっとも高く評価しているのが、ニューヨーク・フィルの高い能力と、それを十二分に発揮させているマズアの統率力です。
 例えば、和音の扱いにしても、ここまでピタッと揃った演奏はなかなか無いのではないでしょうか。濁りがほとんどありません。
 この第9番でも、第2楽章冒頭の2本のクラリネットの動きなど、非常に正確に間隔が保たれた澄んだ響きです。
 さらに、ニューヨーク・フィルのパワー。これもマズアは上手い使い方をしています。
 たしかに、ニューヨーク・フィルは世界でも有数のパワーのあるオーケストラです。しかし、マズアはフォルテやフォルティッシモだからといって、パワー全開で弾かせたりはしません。
 フォルティッシモでも少し抑えて、あくまでもコントロールの効く範囲に留めています。
 しかし、もとがパワーのあるオーケストラであるため、抑えていても他のオーケストラが全力で鳴らしているのと同じかあるいはそれ以上に強く、しかもコントロールが効いているため音は綺麗なままなのです。
 例えば第3楽章の終盤は、弦楽器も管楽器もフォルティッシモの連続で最高に力が入るところですが、まず弦楽器と木管楽器がこれ以上はないと思えるぐらい強く演奏しています。
 後から入ってくる金管はその弦と木管を打ち消すぐらいの勢いで吹かなければならないのですが、これでは金管が弦と木管の勢いに飲み込まれてしまうか、限界を超えて死ぬ思いで吹かないとどうしようもないのじゃないかと思いました。
 ところが、いざ金管が入ってくると、その金管はそれだけ強い弦と木管に十分に対抗できるだけの強さがあるだけでなく、全く無理をせず楽に吹いているかのようにキチンと整った音で吹いているのです。
 まさかここまでやるとは想像を遥かに超えていて、さすがに驚きました。
 また、反対にピアノの部分では、本当に大丈夫かと思えるぐらい音が小さくなっていくのに、かすれたりせずしっかりとした音を保っています。さらにただ音量が小さいだけではなく、第1楽章の冒頭では柔らかかったり、第4楽章では高い緊張感があったりと、それぞれのピアノに求められているものをちゃんと使い分けて表現しています。

 この辺りまでだと、単にオーケストラが上手いだけの機械のような演奏だと思われるかもしれませんが、マズアにはその先があります。
 マズアはメロディーをよく歌わせているのです。
 しかもメインのメロディーだけでなく、伴奏に近い小さなメロディーまで。
 第1楽章は、他の三つの楽章に比べて、様々なメロディーが複雑に入り組んでいるのですが、その一つ一つに至るまで歌わせています。
 もちろん、一度に多くのメロディーが出てくる部分でそれぞれのメロディーを歌わせたらゴチャゴチャで何が何だかわけのわからない状態になりかねません。
 しかしマズアは、歌わせ方に強いものと弱いものとメリハリをつけることで整理し、歌っている分それぞれのメロディーが色分けされて、ごちゃ混ぜどころかむしろスッキリとした響きに仕上げています。
 混沌とした響きを求めている人には向かないのですが、わたしみたいにメロディー中心に聴く者にとってはこっちの方がありがたいですね。
 考えてみれば、マーラーは「和音というものは無い。どの音も全てメロディーの一部に過ぎない」とか言っていたらしいので、案外その考えに一番合っている演奏なのかもしれません(笑)
 一方、第4楽章については、少し堂々として活動的すぎるかもしれません。
 昔、バルビローリがベルリン・フィルと第9番を演奏した時に、第4楽章のリハーサルが初めは朝に組まれていたのを、雰囲気を理解させるためにわざわざ夕方に変えさせたというエピソードがあったそうですが、この演奏は、まさしく朝に録音したんじゃないかと思ってしまうぐらい元気溌剌として大いにメロディーを歌わせています。
 いかにも楽観主義全開といった感じで希望に満ち溢れていて、わたしはこういう演奏が好きなのでそれほど気にならないのですが、退廃的なものを求める方にはちょっと合わないのではないかと思いました。(2004/9/11)


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