G.マーラー 交響曲第4番 ト長調

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独唱ソプラノ:ジョー・ヴィンセント
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1939年11月9日
カップリングフランク 交響曲 他
「ウィレム・メンゲルベルグの芸術」の一部
発売日本フォノグラム(PHILIPS)
CD番号PHCP-3096


このCDを聴いた感想です。


 この演奏を聴く度に、わたしは思います。

 「よくぞマーラーの演奏の録音を残してくれた」と。

 メンゲルベルクはマーラーの演奏が得意と言われていた割には、それほど録音を残していません。
 他には交響曲第5番第4楽章の「アダージェット」と「さすらう若人の歌」ぐらいがあったきりだと思います。
 特に、交響曲まるごと一曲全部というのは、この第4番一つきりです。
 いくらメンゲルベルクがマーラーを得意としていて、マーラー自身から一番評価されていたとしても、録音が残ってない限り、どんな演奏をしていたかは想像でしかありません。
 そう、例えば、リヒターのワーグナーのように。
 文献では素晴らしい演奏をしたとのことですが、現在のわたしたちにとっては、残念ながら伝説の域を出るものではありません。
 同じように、マーラー自身の演奏についても、いくらピアノロールが残っているとはいえ、指揮した演奏が残っているわけではありません。
 したがって、どんな演奏をやっていたかは、今となっては知ることはできないのです。
 メンゲルベルクのこの録音はライブ録音です。したがって、もしその時の録音に失敗していたら……
 危うく伝説の存在になってしまうところでした(笑)
 この演奏が残されていたお蔭で、「マーラーがもっとも高く評価した指揮者」の演奏が聴くことができます。
 たとえ、マーラー生存中の頃とメンゲルベルクの演奏スタイルが大分変化していても、マーラーの意向を汲んだ進化と思えないこともありません。
 また、ライブ録音ということで、メンゲルベルクの「ここ一番」にかける意気込みが伝わってくるのではないかと思います。
 ……まあ、メンゲルベルクはライブとスタジオ録音で、あまり差が出てきにくい指揮者ですが…
 さらに、1930年代のライブ録音とは思えないほど、録音が鮮明です。
 マーラーを聴く際に、重要な点である細部まで、しっかりと聞こえます。
 たった一つの全曲の演奏で、これだけの録音が残っているというのは本当にうれしいことです。

 さて、演奏の方ですが、恐ろしいほどにテンポが伸び縮みします。
 一つとして同じテンポの小節は無いんじゃないかと思ってしまうくらい、常に動かしています。
 しかも極端に遅くしたり、速くしたりしています。
 ところが、そんなにテンポを大きく動かしているのにもかかわらず、思ったほどもたれません。
 さすがに常に自然というわけではありませんが、聴いていて「もっとテンポ通りやってくれ!」と叫びたくなるようなことはほとんどありません。
 なぜそんなに不自然にならないかというと、おそらくテンポの伸び縮みが、曲調に表れる緊張と弛緩の波に上手くマッチしているからではないかと思います。
 そのため、テンポがずっと動いている割には不快にならないのでしょう。
 しかし、同時に驚いたのは、オーケストラの技量です。
 常に動いているテンポに合わせるというのは、例え非凡な技量を持っていても、そう簡単にできるものではありません。
 ましてやライブです。録り直しできるスタジオ録音でも難しいのに、一発もののライブで合わせるなんてほとんど不可能に近い話です。
 それが、これほど合っているというのは、オーケストラと指揮者とが、気が遠くなるくらい何回もリハーサルをし、なおかつ指揮者が常に同じテンポの伸び縮みができるということでしょう。
 もちろん、演奏会の環境によって、テンポも多少の変動があるでしょう。
 それなのに、ピッタリつけてくるというのは信じられないようなことです。

 マーラーの曲には共通してある種の暗さがあります。
 この交響曲第4番は比較的明るく、安らぎに満ちていますが、それでも不安な雰囲気を完全には消し去れてはいません。
 そういう曲にしては、メンゲルベルクの演奏は、ずいぶんと健康的に聞こえます。
 演奏の線が太いこともあり、不安さの根源である病的な雰囲気が無くなったかのようです。
 わたしの勝手な考察ですが、思うに、マーラーは常に何かに不安を抱いており、それが曲ににじみ出ていると。一方、メンゲルベルクは不安を感じることがない自信に溢れた性格だったのではないかと。それが演奏に表れたのではないでしょうか。
 ……いや、わたしが勝手に想像しているだけなんですがね(笑)

 とりあえず、21世紀の一発目がこれです。
 まあ、やっぱり記念すべき録音から始めるのがいいかと思いまして(笑)
 ……すみません。「マタイ」はどうしたとか、<悲愴>はどうしたとかいうツッコミは許してください。(2001/01/05)


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