指揮 | アンドレ・クリュイタンス |
出演 | ソプラノ:ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレス バリトン:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ オルガン:アンリエット・ピュイ=ロジェ |
演奏 | パリ音楽院管弦楽団 エリザベート・ブラッスール合唱団 |
録音 | 1962年2月14・15日、5月25・26日 |
発売 | 東芝EMI |
CD番号 | TOCE-3067 |
フォーレのレクイエムの演奏といえば、名演・名盤集等で現在でも真っ先に上げられるのがこのクリュイタンスの演奏です。 独唱者にロス・アンヘレスとフィッシャー=ディースカウという当時でも最高のソプラノとバリトン、さらに演奏しているパリ音楽院管が、現在では既に存在しない(パリ管は別物と見る人も多いので)ということもあり、少なからぬ人が絶対視しています。 その気持ちは、この演奏を聴いていると、たしかにわかるような気もします。 といっても、一つ一つのハーモニーがピタッと純粋に響いているかというと、決してそうではありません。アンサンブルにしても、パリ音楽院管にしてはかなり良い方だとは思いますが、この演奏以上に揃っている演奏も珍しくは無いでしょう。 しかし、この演奏からは、アンサンブルやハーモニーの不揃いを超越して、純粋で清らかな印象受けるのです。 この演奏以上に、細部のハーモニーやアンサンブルが揃っている演奏はたくさんありますが、全体の印象という点では、クリュイタンスの演奏以上に純粋さや清澄を感じられる演奏には今まで巡り合ったことがありません。 クリュイタンスの演奏には、正確さの代わりに柔らかさと、何よりも暖かさがあります。 この暖かさに浸っていると、心がどんどん安らかになり、死者を悼むレクイエムといっても、慟哭ではなく、悲しみをも超越して、静かに別れの時を迎えるような澄み切った気分になって来ます。 この曲の中で、特に印象に残ったのが、最後の第7曲の「楽園にて」です。 この曲は、死者の棺が墓地に運ばれる途中で演奏される曲で、他の人のレクイエムには無く、フォーレだけが特別にレクイエムに組み込んでいます。 静かな雰囲気自体は、それまでの六曲と変わらないものの、それまでは基本的には短調がベースになっていた曲調が、この「楽園にて」ではポンと一段上がって同名調の長調に変わります。(ニ短調→ニ長調) ここで長調に変わることで、それまで下界にあった死者の霊が、ついに天上界に昇天していったような印象を受けるのです。 クリュイタンスの演奏では、この曲の間中ずっとバックで繰り返されている、オルガンの分散和音が絶妙です。 少しピコピコと跳ねている音色といい、さりげない音量といい、まるで天上界にいるような、幸福感と下界でのしがらみから解き放たれたような明るさを感じさせるのです。 わたしは、フォーレに限らず、全般的にレクイエムというジャンルを苦手にしていたのですが、この演奏を聴いて、レクイエムの魅力が少しはわかるようになりました。 良い機会ですので、この際、他の有名どころのレクイエムにも挑戦してみようかと考えています。(2002/9/20) |