G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」

指揮ヘルマン・シェルヘン
独唱ソプラノ:ピエレット・アラリー
アルト :ナン・メリマン
テナー :レオポルド・シモノー
バス  :リチャード・スタンデン
演奏ウィーン国立歌劇場管弦楽団
ウィーン・アカデミー室内合唱団
録音1959年4,6月
発売Westminster(MCA)
CD番号471 232-2


このCDを聴いた感想です。


 これまでにいろいろメサイアの演奏を聴いてきましたが、ここまで演奏時間が長い演奏は初めて見ました。
 メサイアのCDというと、まれに3枚組があるものの、ほとんどはCD2枚組です。
 ということは、目一杯収録しても80×2=160分、まあ大抵は150分、つまり2時間半ぐらいの演奏時間となります。
 数少ない3枚組で売られているCDにしても、1枚あたりの収録時間は短く、今まで2時間45分を越える演奏など無かったと思います。
 ところがこのシェルヘンの演奏は、単に3枚組というだけでなく、1枚あたりの収録時間は3枚とも1時間を超えているという破格の演奏なのです。
 合計した演奏時間は3時間10分を超え、他の演奏よりも約40分も長くなっています。

 この演奏時間が異常と言えるほど長い理由は、だいたい想像できると思いますが、そのテンポの遅さにあります。
 しかし、テンポが遅いといっても、アレグロ系の楽譜に速いテンポ指示がある曲については、意外なことに他の演奏とあまり大差ない速さなのです。
 いや、例えば第7曲の『And He shall purify』の合唱曲のように、却って、多くのメサイアの演奏の中でも際立って速いテンポが取られている曲も多く見受けられます。
 では、一体どこがテンポが遅いのかといいますと……アダージョやラルゴのような遅いテンポ設定の曲が、信じられないくらい引き伸ばしたテンポになっているのです。
 メサイアの冒頭の『序曲』はGraveという設定なのですが、初めてこの演奏を聴いた時には、第1拍の付点四分音符の音があまりにも長いため、フェルマータか何か楽譜に書いてあったかな、と思わず総譜を確認してしまったぐらいです。
 しかも、もっと恐ろしいのは、その付点四分音符にはフェルマータがついていたわけでも頭の音ということで特に長く引っ張ったわけでもなく、その長さが額面通り八分音符三つ分というテンポだったという点なのですが……

 しかし、さらにそれ以上に強烈なのが、終曲のアーメンコーラスです。
 この曲は、テンポ設定がアレグロ・モデラートということで、もちろん演奏によって多少速度に違いはありますが、シェルヘン以外の演奏では、だいたい『四分音符=120』前後で、演奏時間も約3分半、どんなに遅い演奏でも4分を超えることはありません。
 ところが、シェルヘンの演奏では、推定『四分音符=50』前後。なんと他の演奏の半分以下のテンポなのです。
 演奏時間も、実に8分半と空前絶後の長さを誇っています。
 ここまで来ると、もうほとんど同じ曲とは思えないほどで、実際、シェルヘンのアーメンコーラスを聴いていると、そのあまりの時間の流れ方の違いに、まるでインドのガンジス河のほとりに立って、悠久の流れを眺めているかのような気にさえなって来ます(笑)(実際にインドには行った事がありませんけど)

 こういった具合にテンポの遅さで突出しているこの演奏ですが、逆に驚いたのは、これだけテンポが遅いにも関わらず全くだれた雰囲気が無い点です。
 どんなに遅いテンポになろうとも、一音一音に力が込められていて、緊張感があります。
 さらに古楽器のような小編成のアンサンブルでは無く、大編成のオーケストラという点も上手く作用しています。
 テンポがゆっくりな分、ピアノからフォルテまでのダイナミクスの差を広く取らないと間延びして聞こえがちになるのですが、大編成であるため、ダイナミクスに差をつけやすく、逆に、大きなダイナミクスとゆっくりとしたテンポが上手く相乗効果を生み、大きな波のような盛り上がりを形作っているのです。

 またもう一つ面白い点として、遅いテンポの割にメロディーをあまり歌わせていないという特徴があります。
 ゆっくりとしたテンポというと、それに合わせて、メロディーの方もビブラートをたっぷりと利かせて、レガートでじっくりと歌い込まれていると思いがちですが、実はどんなにゆっくりした曲でも、メロディーの方は意外なほど直線的でビブラートも抑えた歌い方をしています。
 その代わりアタックが硬めに入っていて、どちらかというと横の流れよりも縦が強調されたメリハリのある演奏という印象を受けます。

 わたしは基本的に、テンポが遅い演奏はあまり好きではないのですが、この演奏は珍しく最後までワクワクしながら聴く事が出来ました。
 しかし、いくら良い演奏といっても、さすがにこの演奏時間はあまりにも長く、そんなに気軽には楽しめない点が辛いところです(笑)(2002/8/23)


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