指揮 | コリン・デイヴィス |
出演 | ソプラノ:マーガレット・プライス アルト :ハンナ・シュヴァルツ テナー :スチュアート・バロウズ バス :サイモン・エステス Tp :シャンドラー・ゲティング |
演奏 | バイエルン放送交響楽団 バイエルン放送合唱団 |
録音 | 1984年10月27日〜11月5日 |
発売 | 日本フォノグラム(PHILIPS) |
CD番号 | 30CD-236~38(412 538-2) |
パッと聞くと、いつものコリン・デイヴィスらしいオーソドックスな演奏に聞こえるのですが、実は他の演奏に無い変更が端々にあり、それが大きく効果を上げています。 その特徴がもっとも顕著に表れているのが第2部の初めの方の数曲です。 例えば、第2部冒頭の「Be-hold the Lamb of God」(みよ、世の罪をのぞく神の子羊を)では、ほとんど全編をピアニシモで通しています。 それだけでも非常に緊張感があるのですが、さらに、この曲の後半に出てくるある一つのフレーズだけをフォルティッシモで演奏することで、大きなアクセントができ、より強く印象付けられます。 さらに、第2部の第4曲の「And with His stripes we are healed」(その打たれし傷によりて)では、伴奏を取り払い、合唱だけのア・カペラにすることで、音がより純粋になり、耳にいつまでも残るような魅力が生まれているのです。 また、全体を通してでは、これは他の演奏でもたまに見られる変更ですが、パート全体で演奏するところを、部分的にソロに変えています。 例えば、ヴァイオリンの場合は、ヴァイオリン奏者全員で弾くべきところを、ソロで弾いているという事です。 古楽器のオーケストラと異なり、もとのオーケストラが大編成なだけに、ソロとそうでない部分の差は意外と大きく、全合奏から急にソロになった時はかなりインパクトがあります。 それ以外にも、これも他の演奏にもある変更ですが、オルガンとチェンバロの使い分けがあります。 それぞれの曲で、オルガンとチェンバロとでより相応しい方が選ばれています。 しかも、アドリブの付け方と音量がまた絶妙で、アドリブによってちゃんと自己主張をしながらも、あくまでも伴奏という立場が崩れていないのは大きな魅力です。 いろいろ変更点を挙げましたが、実はこれらのアレンジの魅力には共通している点があります。 それは『ピアノ』です。 どういうことかといいますと、通常はフォルテで演奏されるところを、あえてピアノで演奏させることで緊張感や美しさを生み出しているのです。 実は、例には挙げませんでしたが、第1部の第17曲の「Glory to God」や終曲のアーメンコーラス等もピアノで開始することで大きな効果をあげています。 『ピアノで聴衆を引き付けられる事』これこそが、この演奏の一番の魅力であり、そしてコリン・デイヴィスとバイエルン放送響の凄さでもあるというわけなのです。 ところで、コリン・デイヴィスの「メサイア」の録音は、当録音の他に、1966年にロンドン響と行なったものがあります。 両録音ともPHILIPSへの録音なのですが、ロンドン響との旧録音は簡単に入手できるのに対して、バイエルン放送響との当録音は、同じPHILIPSにもかかわらず、なぜか非常に入手困難です。というか、既に国内・輸入ともカタログからは影も形も無く、ほとんど廃盤状態です(涙) いろいろ手を加えている当録音に較べ、旧録音の方はほぼオーソドックスなアプローチを取っていることを考えると、これだけ特徴ある演奏が聴かれるチャンスが無いというのはとても残念です。 何かの間違いでもいいですから、再販されることを願っています。(2002/4/19) |