G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」

ペータース版

指揮カール・リヒター
出演ソプラノ:グンドゥラ・ヤノヴィッツ
アルト :マルガ・ヘフゲン
テナー :エルンスト・ヘフリガー
バス  :フランツ・クラス
演奏ミュンヘン・バッハ管弦楽団
ミュンヘン・バッハ合唱団
録音1964年6月
発売ポリドール(ARCHIV)
CD番号POCA-2058/9


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、実はわたしが初めて買った「メサイア」のCDなのですが、買ったときから、「何て生気に乏しいつまらない演奏なんだ」という印象を持っていました。
 唯一の取り柄はソロ・トランペットのみで、後は聴いていてもすぐに眠くなってしまうような演奏でした。
 まあ、もう一つモーツァルト版以外でドイツ語で歌っているちょっと珍しい演奏というウリもあるにはありましましたが、そんなに大きな違いじゃありませんし。
 他にも「メサイア」の演奏を持っていた事もあり、最近はほとんど聴いていなかったのですが、この前、久しぶりトランペット・ソロを聴きたくなり、せっかくなので全曲聴いてみたのですが……

 すみません。またやっちまいました……

 先日の「マンフレッド交響曲」に引き続き、またしても、最初に受けたわたしの印象が大嘘である事がわかってしまいました。
 生気が乏しいどころではなく、力のこもった演奏だったのです。
 もう冒頭の序曲からして、まるでバッハの受難曲のように魂が入りまくりです。
 そのため、まるで刀を大上段から振り下ろしたように、一つ一つの音に重みがあり、息が詰りそうで、聴いていると逆に疲れてくるほどです。
 その代わり緊張感は高く、フーガの部分などは非常に迫力があります。

 では、なぜ以前聴いたときには、つまらなく感じたかというと、どうやら聴くときの音量と同じ頃に聴いていた演奏が問題だったようです。
 わたしにとって、この演奏はある程度大きな音量で聴かないと、良さが伝わってこないようです。音量が小さいとわたしの耳まで届いてこないのです。
 また、これを買った直後にもう一枚「メサイア」を買ったのですが、それがガーディナーの演奏だったのです。
 相手がキレの良い演奏だっため、リヒターのタイプの演奏はどうしても見劣りしてしまったのです。
 まあ、相手がガーディナーでなければ、そこまで酷くは聴こえなかったんでしょうけど。相手が悪すぎました。

 今回聴き直していろいろ新しい発見をしましたが、この演奏で一番印象に残っているのは、やはりソロトランペットです。
 ソリストはモーリス・アンドレで、その音色、音の輝きには圧倒されました。以前書いた「クリスマス・オラトリオ」の終曲と全く一緒です。
 特に、トランペットが一番活躍する第46曲の「The trumpet shall sound」は、数ある「メサイア」の中でも最高の演奏の一つだと思います。
 この曲でのアンドレのソロは、とても滑らかで自然に聴こえます。
 わたしは、普段曲を聴いているときは、自然か不自然かはあまり気にしない方なのですが、この演奏にだけは、自然に演奏する事の魅力を思い知らされました。
「心洗われるような演奏」というのは、おそらくこのソロのような演奏のためにある言葉だと思えてくるほどです。
 いままで聴いた「メサイア」の中で、この演奏に匹敵するソロというのは、ショルティ指揮シカゴ響のアドルフ・ハーセスぐらいでした。(それも、一回ぐらいしか聴いた事が無いので、かなりうろ覚えですが…)
 ただ、残念な事に、「メサイア」という曲はトランペットが出てくる曲が少なく、第1部に一曲、第2部にも1曲、第3部でも2曲の、計4曲しかなく、活躍の場が少ないのです。
 うーん……「グーセンス版」くらいあれば、心行くまで堪能できるんですけどねぇ。

 また、この演奏の変わった点として、カットがあります。
 リヒターの演奏では、バッハ等を聴いても、カットしている演奏を見た事が無いのですが、この「メサイア」においては、珍しく数曲カットしています。
 第2部から1曲と、第3部から 曲なのですが、第2部の曲は、第38曲のバスのソロが「Why do the nation」と歌うアリアの続きに当たる、第39曲の合唱が「Let us break their bonds asunder」と歌う曲です。この曲はリーフレットの注釈によると『第38曲のバスのアリアの興奮を更に展開しているにすぎないから』とあるのですが、個人的には好きな歌なので、ちょっともったいないような気がします。
 また第3部は、第46曲のトランペットソロがあるバスのアリアの後、第48曲のアルトとテナーの二重奏に入る前の導入として第47曲に短いレチタティーボがあるのですが、なぜか、レチタティーボの後、二重奏に入らず、急に終曲にあたる第51曲の「Worthy is the Lamb」まで、スキップしてしまうのです。
 曲をカットする事自体については、わたしはあまり気にしない方なのですが、さすがにこんなところでカットしてしまうのは……はっきり言ってヘンです。
 いっそ、レチタティーボからカットした方が、よっぽど流れが良いと思うのですが……

 リヒターは、この演奏の他に、後年ロンドン・フィルとも録音しています。
 この演奏も、わたしは一回しか聴いた事がありませんが、こちらも堂々とした良い演奏だった記憶があります。(2001/11/2)


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