G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」より「ハレルヤコーラス」

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
アムステルダム・トーンクンスト合唱団
録音1938年5月7日
発売及び
CD番号
キング(KICC 2056)


このCDを聴いた感想です。


 初めに書いておきますが、この録音、音は無茶苦茶悪いです。
 ライブ録音ということもあるのですが、1938年の録音にしてはかなり悪いほうに入るでしょう。
 とにかく音がクリアでなく、分離状態が非常に劣悪で、全てゴチャっとして聞こえてきます。
 冬物の分厚いカーテン越しに聞いているかのようで、唯一のいいところは雑音が少ないことでしょうか。
 その中でも合唱は割とはっきり聞き取れるのですが、バックのオーケストラ…特に弦楽器はほとんどいっていいほど聞こえてきません。

 ただ、内容は音の悪さを我慢して聞くだけの価値があります。
 まず、決定稿がないといわれる「メサイア」ですが、メンゲルベルクも他の人とはちょっと違うアレンジを加えています。
 具体的にはホルン等の金管の強化ですが、モーツァルトの編曲に割と近いと思います。部分的にはビーチャムが演奏しているグーセンス版に近いところもあり、モーツァルト寄りの中間といったところでしょうか。
 何分、劣悪な録音から聴き取ってますので、音の一つ一つのチェックはほぼ不可能ですし、そもそも、パート自体も5パートぐらい聞き逃している可能性もありますが(笑)

 しかし、アレンジよりも強烈な印象を与えてくれるのがダイナミクスとテンポです。
 ダイナミクスでは、曲の中でよく「ハレルヤ」を4回繰り返すパターンが出てくるのですが、このパターンは全て『p』から始まって『mp』『mf』『f』とクレッシェンドさせています。
 そりゃ確かに劇的な効果は上がるでしょうが、さすがにここまでやった演奏は聞いたことがありません。
 それに輪をかけて凄いのがテンポです。
 この演奏、そもそも始まりのテンポからして倒れそうなほど遅いのですが、その上考えられないようなテンポの変動があるのです。
 よく、メンゲルベルクの「マタイ受難曲」がバロックとは思えないほどテンポの変動が激しいと言われていますが、この演奏はそれのさらに上を行っています。
 メンゲルベルクもベートーヴェンではスッキリと演奏する傾向があるのに、この辺の曲では逆に激しくテンポを揺らしているのは何ででしょうね?
 「マタイ受難曲」の時とはちょっと異なり、フレーズの最後でテンポを落としたりということはやっていません。
 その代わり、なんだそりゃってところでテンポを落としています。
 一つ目は合唱が「The Kingdom of this world…」と入ってくる部分で、ここは、確かに曲調も落ち着いて、ダイナミクスも『p』に落としたりする指揮者は多いのですが、ダイナミクスを全然落とさず、テンポだけ、止まりそうになるくらい落とすのです。
 そうかー、じっくり演奏するというのはこういうことだったんだー…と勘違いさせてくれるほどです。
 そして最後。
 曲の最後の「for ever and ever」から「Hallelujah!」へと、同じ音型がずっと続くところです。
 この部分のテンポを変える指揮者はそういないと思います。以前、ビーチャムがこの部分を猛烈なアッチェルランドをかけてるのを聞いて驚いたことがあるくらいです。
 ところが、わたしはメンゲルベルクの演奏を聴いて唖然としました。
 メンゲルベルクは、なんとその部分に強烈なリタルダンドをかけているのです!
 ほとんど「何じゃそりゃー」の世界で、なにがしかベートーヴェンの交響曲第9番の最後を彷彿させるものがあります。
 その発想の素晴らしさには、もう感心を通り越して、一回脳を割って中の構造を調べたくなってきます(笑)
 こういうのがあるから、メンゲルベルクを聴くのは楽しいんですよね〜(2000/11/10)


サイトのTopへ戻る