G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」

出演ソプラノ:シビッラ・ルーベンス
アルト :インゲボルグ・ダンツ
テナー :ジェイムズ・タイラー
バス  :トーマス・クヴァストホフ
演奏オレゴン・バッハ祝祭管弦楽団
オレゴン・バッハ祝祭合唱団
録音1997年7月12〜15日
発売hänssler
CD番号98.198


このCDを聴いた感想です。


 リリングのメサイアは、わたしの知っている限り2種類あります。一つは、自らが設立したシュトゥットガルト・バッハ合奏団を1991年に指揮したもので、モーツァルト編曲版を使用しています。この録音はCDだけでなくDVDで映像も発売されています。メサイアの映像は意外と少なく、わたしの知っている限りでは6〜7種類しかありません。しかもモーツァルト版ですから、なかなか貴重なものです。そしてもう一つが今回取り上げる1997年に録音したものです。これは、オレゴン州のバッハ音楽祭のオーケストラを指揮したもので、モーツァルト編曲版ではなく、一般的な版で演奏されています。
 1991年と1997年ですから、録音が6年しか違わず、レコード会社も同じヘンスラーですが、モーツァルト版とオリジナル版ということもあり、聴いた時の印象はかなり異なっています。
 モーツァルト版の1991年の録音の方は、オリジナル版よりも楽器の種類が増えていることもあって、響きに厚みがあり、フワッと周りに音が広がっていきます。
 それに対して1997年の新録音の方は、グッと響きが締まっています。
 実は、オーケストラの人数としては、CDのメンバー表を見る限り、管楽器を別として、弦楽器の人数であれば、シュトゥットガルト・バッハ合奏団は22名で、オレゴン・バッハ祝祭管は20名と、ほとんど差はありません。しかし、1991年の録音は、現代楽器による大編成の響きに近く、逆に1997年の新録音は、小編成の古楽器系の演奏に近い響きなのです。
 ただ、古楽器系に近いといっても、実際に小編成の演奏では、個々の楽器の音がダイレクトに耳に届くため、肉を大きくこそぎ落とした骨格標本のような、良く言えばスキッとした演奏になりがちです。これが、リリングの演奏では、肉は削ぎ落とさず、その代わり、ギュッと圧縮しています。そのため、響きが広がらず小さくまとまっているのに、いや、まとまっているがために非常に密度が高く充実した響きになっています。
 ただ、充実しているのは良いのですが、密度が高いということは比重が高く、ともすれば音楽が重くなり、聴き進めるうちに疲れてしまいかねません。この点をリリングは、音を短く切って歯切れ良くすることで上手く解消しています。
 速いテンポでの細かい動きは、全てスタッカートと言って良いぐらい短く切ることで、響きの濃さを保ったまま軽快さも出しています。
 特に特徴的なのが、スラーの最後の音の短さです。第3曲の「Ev'ry valley〜」や第23曲の「All we like sheep〜」などの、「タラ、タラ、タラ、」というリズムでは、横の流れを完全に断ち切るぐらいの勢いで、スパッスパッと切っていきます。そのため、メロディーとしてのつながりはだいぶ薄れてしまっていますが、その分、リズムの良さは他の演奏ではなかなか聴くことができないほどです。
 響きが充実しているため、リズムが立っていても、突き刺すような鋭さでは無く、耳に心地よい適度な厚みがあります。それが軽快にパッパッと動いていくところに、この演奏の魅力があるのではないかと思います。
 わたしがモーツァルト版があまり好きではないこともあるのでしょうが、1991年の録音より、こちらの新しい録音の方が好みです。
 ちなみに、オリジナルといってもその中でいろいろ版があるわけですが、CDの英文のリーフレットを自分の怪しげな読解力で読む限りでは、いろいろな年代の版を混合したものを使用しているようです。細かい曲のバージョン違いについても、第12曲の「Pifa」を短い版を使用しているのが多少変わっているぐらいで、他の部分は、だいたい最大公約数のバージョンを使用しています。標準的といえば標準的で安心できますが、変わったバージョンを楽しむのには向いていません。(2010/3/20)


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