G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」

指揮・チェンバロトレヴァー・ピノック
出演ソプラノ  :アーリーン・オジェー
アルト   :アンネ・ソフィー・フォン・オッター
カウンターテナー:マイケル・チャンス
テノール  :ハワード・クルーク
バス     :ジョン・トムリンソン
演奏イングリッシュ・コンサート
イングリッシュ・コンサート合唱団
録音1988年1月
発売ポリドール(Archiv)
CD番号POCA-2513/4


このCDを聴いた感想です。


 以前のガーディナーに引き続き、これもオリジナル楽器による演奏です。
 この演奏も、外面的な派手さを強調した演奏ではなく、小編成ですっきりとまとめています。
 オーケストラ自体もキレのあるスピード感あふれる演奏なのですが、特に強調したいのは合唱です。
 ガーディナーの演奏と較べて、演奏のキレの良さという点ではガーディナーの方が勝っていると思いますが、合唱では、ガーディナーの方にわずかに…そう、ほんのわずかにあった濁りが、ピノックの方には見られません。
 もちろん、ガーディナーの方の合唱も水準より遥か上のレベルなのですが、この演奏の合唱は信じられないくらい綺麗なのです。
 ガーディナーの方は、キレと迫力がある、感情に溢れた合唱なのに対して、この合唱はすでに感情を感じさせません。
 人間界をはるかに飛び越えた、手の届かない存在…という感じがします。

 ピノックの「メサイア」の中で、最高の演奏は第12曲の「ひとりのみどりごがわれわれのために生まれた」です。
 「メサイア」の中でも最も規模の大きい曲の一つなのですが、この曲の中で合唱は、歌っている一人一人よりも、合唱そのものが一つの存在となって、意志を持っているかのように、自由を得ています。
 考えてみれば、人間より上の、大いなる意志を感じさせるという点で、ある意味もっともキリスト教的かもしれません。

 全体としては、合唱の美しさと相まって、とてもやさしい印象を受けます。
 テンポ自体は速めで、スマートなのですが、無理に力んだりはせずに、アタックを抑え気味で、音が出てから少し膨らますという奏法なので、鋭さよりもやわらかさをより感じます。
 興奮よりも安らぎをもたらしてくれる演奏です。

 独唱の中では、コントラルトのアンネ・ソフィー・フォン・オッターが一番印象に残りました。
 第9曲の「よきおとずれをシオンに伝える者よ」と第23曲の「彼は侮られて人に捨てられ」という目立つソロを担当しているというせいもあるのでしょうが、あの深みのある声は忘れられません。
 中でも第23曲は「メサイア」の中で最も長い曲で、さらにあんまり山や谷のない曲なので、聴いていて退屈することもよくあるのですが、オッターは、過剰に抑揚を付けたりしているわけではないのに、その深さに包まれるため、音の一つ一つが際立って感じられます。

 ところで、このCDでは、歌手別のパートの名称は、オッターがアルトでチャンスがカウンターテナーとなっていますが、曲につけられたパートでは、アルトのパートはチャンスが歌っていて、オッターはコントラルトのパートを歌っています。
 初め、アルトのパートはアルトが歌うとばっかり思ってましたので、CDを聴いていて、あれっ!? オッターってこんな声だったっけ? と、ちょっと混乱しそうになってしまいました。
 原語時点で既にそうなっているとは思うのですが、もうちょっとわかりやすい表示にして欲しかったと思います。(2000/9/1)


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