指揮 | ロバート・ショウ |
出演 | ソプラノ :ジュディス・ラスキン コントラルト:フローレンス・コプレフ テナー :リチャード・ルイス バス :トマス・ポール トランペット:ジェームス・スミス |
演奏 | 管弦楽団(ニューヨーク・フィルハーモニック) ロバート・ショウ合唱団 |
録音 | 1966年6月13〜20日 |
発売 | BMG(RCA) |
CD番号 | 82876-62317-2 |
アトランタ響の指揮者、それ以上に合唱指揮者として知られるロバート・ショウは、メサイア全曲を2回録音しており、これはその1回目の録音です。2回目の1983年の録音は馴染み深いアトランタ響とですが、1回目は名義上は名も無き単なる「管弦楽団」、その実体はどうやらニューヨーク・フィルなのだそうです。 2回目のアトランタ響との録音は、ハイライト盤はあちこちで見かけそれほど珍しくないのに、全曲盤はなぜかほとんど見かけず、入手はかなり困難になっています。一方、このニューヨーク・フィルとの録音は、CD化されたのがつい2〜3年前で、発売されるまではその存在すら知りませんでしたが、最近の発売だけあって、現在はこちらの方が入手しやすいと思います。 参考ながら、全曲以外では、1961年にクリーブランド管と「ハレルヤ」だけの録音もあります。 さて、演奏の方は、2回目のアトランタ響との録音が、わりと大人しい表現で主に響きで聞かせるのに対して、1回目のこちらの演奏は、力強く動きがあります。 音に厚みがあり、そういうところは大編成らしいのですが、大編成だからといって反応が鈍くなったりせず、低音でもキレのある動きを見せています。いや、むしろ低音は全体のバランスの中でも強い方で、響きに重さと安定感を加えています。重い音だと動きが鈍重になりそうなものですが、動きのキレの良さは全く鈍っていません。オーケストラの強大なパワーを存分に生かし、重い音でも自在に動かしているのです。 おおむね響きよりも動きが重視されていて、さらに大編成でキレがあるので、メサイアの演奏の中でも最も太く力強く鮮やかな動きを堪能できる演奏の一つだと思います。 もっとも、あまりにもパワーが表に出すぎていて、アリアのような繊細な曲まで、歌い手が柔らかく歌っているのにもかかわらず、チェンバロと低音の伴奏が下の方で、堂々と演奏しているのには苦笑してしまいましたが。 さて、ショウといえば合唱ですが、わたしはオーケストラ以上に合唱の良し悪しはよくわかりません。たしかに揃っていますが、人数が多いだけに力強さはあっても響きはそれほど澄んでいるようには聞こえず、他と較べて特筆されるほど上手さがあるとまでは感じられませんでした。 ただ、一つ感心したのが発音です。 ソロも含めて、これほど歌詞が聞き取りやすい演奏はなかったと思います。単語の一つ一つをていねいに発音し、特に言葉の出だしをハッキリと発音しています。さらに必要以上に声を響かせず、いわば語りに近い形で歌っているため、ヒアリングが壊滅的なわたしでもわりと聞き取ることができました。 少人数ならまだしも、これを大人数でやっているのですから、ますます驚かされます。 ついでに、もう一つ驚かされたのが最後のアーメンコーラスです。 とんでもなく速く、ほとんどアレグロといって良いぐらいのテンポなのです。 2回目のアトランタ響との演奏でもやはり速く、どうやらショウの特徴らしいのですが、この演奏の方がアトランタ響よりも速さが上回っています。 その上、アトランタ響の方は、まだレガートっぽく滑らかだったのに対して、こちらは音を一つ一つ短く切っています。アレグロ・スタッカートになっているのです。 宗教的な荘厳さは全く無く、活気に満ち溢れ、それどころかウキウキとした楽しさまで感じられるほどです。なんだかモーツァルトの交響曲第41番<ジュピター>の終楽章を聞いているかのような気になってきました。面白さという点でも、なかなかポイントの高い曲です。(2006/12/9) |