G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」

指揮サウリュス・ソンデツキス(Saulius Sondeckis)
出演独唱者:不明
演奏リトアニア室内管弦楽団
アヴェ・ソル合唱団
録音不明
発売Mazur Media
CD番号GOV 3010


このCDを聴いた感想です。


 日本語でも東京弁や鹿児島弁があるように、英語にもキングズ(クィーンズ)・イングリッシュを始めとして、米語や豪州訛りなど国によって単語や発音も少なからず異なります。特に豪州訛りは、「eight」をエイトではなくアイトと発音するなど、注意して聞いていなくても即座に分かるぐらい大きな違いがあります。「I'm going to the hospital today」が「アイム ゴーイントゥー ザ ホスピタル トゥダイ」(わたしは死ぬために病院に行きます)と聞こえるという定番のジョークもあるくらいですし。
 英・米・豪等だけでなく、ネイティブ以外の国の場合も、英語をしゃべっていてもどことなくドイツ語風だったりフランス語風だったりと、どうしても本人の国の言葉の影響が出てしまうことも少なくありません。それぞれドイツ訛りやフランス訛りといったところでしょうか。
 この演奏の場合は……リトアニア語訛り?
 いやもう、ほとんど英語の発音とは思えません。
 これほどかけ離れた発音を聞いたのは初めてです。
 歌詞が入る第2曲の「Comfort ye」からすでに「カムフォエティー」で始まります。
 聞いていて思わず、はて、これは何語かな? と一瞬わからなかったぐらいです。
 第3曲以降もずっと同じ調子で進んでいきますが、なんといっても極めつけは、第29曲の「But Thou didst not leave His soul in hell」です。
 途中で「nor didst Thou suffer Thy Holy One to see corruption.」という歌詞が出てきますが、それを「ノ ディドスト ザウ サーフェル ダイ ホーリーワン トゥ シー コーラープシャーン」と発音しています。

 ……いくらなんでも「シャーン」は無いだろう。

 今までメサイアをいろいろ聴いてきましたが、いや、メサイアに限らず、いまだかつて「tion」を「シャーン」と言う発音は聞いたことがありません。
 これにはさすがに耳を疑いました。
 この「corruption」という単語は、この第29曲の中で一回だけではなく何回か登場しますが、初めのうちは、「ショーン」だか「シャーン」だかちょっと曖昧な発音で、わたしも「あれ? なんだか『シャーン』って言っているように聞こえたけど、まさかそんな発音のはず無いし、聞き間違いだな」ぐらいに思っていたのですが、最後に登場するところで、はっきり「シャーン」と、しかもアクセントをつけて強調しています。ここまでされては、これはもう聞き間違いでもなんでもなく、完全に「シャーン」と発音していると確信しました。
 というか、わざわざ強調しているところといい、確信犯としか思えません。
 しかも、これはテノールだけでは無いのです。
 ここまで明確ではありませんが、他の独唱者も、さらには合唱まで揃いも揃って妙な発音で発声しています。
 もしかして、リトアニアではこれが標準の発音なんでしょうかね?
 とはいえ、この中でも最も強烈なのは、やはりテノールです。
 そこまで強烈なソリストは一体誰なのか。
 わたしは、普段他の指揮者のメサイアを聞いていても、ソリストにはほとんど興味が無く、誰が歌っているかなんて全く気にしていないのですが、今回だけはぜひ知りたくなりました。
 ところが、非常に残念なことにこのCDには独唱者の記載が無いのです。
 だいたい、メサイアのCDでソリストの記載が無いことは珍しく、少なくともわたしは他には知りません。
 しかし、よりによって珍しくソリストに興味を持ったCDにだけ無いとは……重ね重ね残念です。
 レコード会社はMazur Mediaというドイツの会社で、他にはカヒッゼ/トビリシ響のCDなんかも出しているようですが、コスト削減のためかどうかはわかりませんが、リーフレットは内側白紙の単なる二つ折りという簡易すぎるほど簡易なもので、必要最低限の情報しかないためどうも困ります。

 強烈な印象の発音に較べ、オーケストラの演奏はずいぶんまともで、すっきりとまとまっています。
 直線だけで構成されたように、音を滑らかにつなぐよりも、一つ一つの音をしっかりと出し、それを律儀に並べていきます。硬めで、もう少し融通をきかせても良いとも思いますが、なかなか清潔感のある演奏です。
 さらに付け加えると、第43曲の「The trumpet shall sound」などに登場する、トランペットは、かなり存在感があります。
 そもそも強めに吹いている上に、ロシア系に近くビブラートまでたっぷりとかけていて、第43曲なんかは、主役のバス・ソロよりもよっぽど目立っています。おそらく、この曲のトランペット・ソロの中でも、傍若無人度の高いものの一つではないでしょうか。(2006/5/20)


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