G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」

指揮ペーター・マルシック(Peter Marschik)
出演ボーイソプラノ:マックス・エマニュエル・ツェンチッチ(Max Emanuel Cencic)
カウンターテナー:チャールズ・ハンフリーズ(Charles Humphries)
テナー :イヴァン・シャルペ(Ivan Sharpe)
バリトン:ロバート・トーディ(Robert Torday)
演奏アカデミー・オブ・ロンドン(Academy of London)
ウィーン少年合唱団
ウィーン合唱団
録音1994年11月17・19日
発売CAPRICCIO
CD番号60 068-2


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、ウィーン少年合唱団が歌っているというのがウリですが、どちらかというとそれ以外の部分で個性が爆発しています。
 まず、CDの収録状況からして変わっています。
 メサイアの全曲盤のCDといえば、シェルヘンやビーチャム(あとC・デイヴィスの新盤もそうか)といった変な演奏を除けば、ほぼ間違いなく2枚組みです。
 その1枚目と2枚目の切り替わりは、大抵は第2部2曲目の『He was despised』(第20曲)の後か第2部5曲目の『All we like sheep』(第23曲)の後で、たまに第1部と第2部の間(なぜかモーツァルト編曲版に多い)かぐらいで、他で切り替わるCDはほとんど無く、あっても第2部の頭から『All we like sheep』の間のどこかです。
 ところがこのCDはそんなところでは切り替わりません。
『He was despised』を過ぎて次の曲に入った辺りまでは、「ああ、1枚目が長めのタイプだな」程度に考えていたのですが、『All we like sheep』を超えて先に進んだのには驚きました。
 今までそんな演奏聞いた事がありません。
 しかもその先がまた全然終らないのです。
 その驚きは、まるで初めてゼロ戦に出会ったアメリカ軍のようで、「いや、戦闘機がこんな距離を飛んでこれるわけが無い。途中で給油していないなんて嘘だ!」とどこかで無意識のうちにCDを入れ換えたんじゃなかったかと疑ってしまったほどです。
 結局1枚目のCDが終ったのは、第2部11曲目の『Lift up your head』(第30曲)の後。いくら何曲かカットしてあるとはいえ、よくぞまあ1枚にそこまで押し込んだものです。しかもテンポもそうむちゃくちゃ速いわけではないのに。
 カットした曲についても、その選曲にはちょっと驚かされました。
 たしかに『全曲盤』と銘打っている他の演奏でも何曲かカットしているものがありますが、カットされている曲というのはほぼ似たり寄ったりで大抵第3部の『O death,where is thy sting?』(第44曲)以降の3曲あたりがその対象です。
 しかし、この演奏は第1部のアルトアリアの『O thou that tellest good tidings to Zion』(第8曲)などをカットしています。第1部の中でもなかなか人気が高いこの曲をカットするというのは、さすがに他に見たことがありません。
 さらに、曲丸ごとだけではなく、曲の中でもカットをしています。
 アリアなんかでは、前奏をカットしたり間奏をカットしたりと曲によってはかなり圧縮されています。
 第2部の『But Thou didst not leave His soul in hell』(第29曲)に至っては、カットの上に新たな楽譜まで付け加えられていて、ほとんど新しい版ではないかと思えるぐらい変えられています。
 この演奏が変わっているのは、カットだけではありません。
 演奏の方もそうとう変わっています。
 とにかく異常にメリハリがついています。
 それもフォルテとピアノの差が大きいのではなく、その変わり目がくっきりとしているのです。
 だんだん大きくとかだんだん小さくよりも急に大きく急に小さくで、しかも「え? なんでこんなところで!?」と思うようなメロディーの途中で急に強さが変わります。
 たしかにもともと楽譜には強弱記号は一部にしか指定が無いのですが、それにしても流れを思いっきりぶったぎるようにピアノになったりフォルテになったりするのはちょっと他では聴いた事が無く、インパクトは十分です。
 ただ、その一方で単なるイロモノでもなく、特にピアノ部分の美しさは他の演奏でもなかなかないぐらいです。
 さて、ウリのウィーン少年合唱団についてですが、肝心のソプラノの合唱は声が子供っぽすぎてどうも今一つ表情が乏しかったように感じられました。アンサンブルが粗かったのも天使の歌声に聞こえなかった原因の一つです。わたしには、むしろアルトの合唱の方が子供よりもうちょっと年齢が上の少年らしさがあって魅力を感じました。
 印象としてはソプラノよりアルトの方が上でしたが、どちらも少年合唱という点自体が独自性として価値があるのです。
 ついでに演奏しているアカデミー・オブ・ロンドンというオーケストラもどうやら若手主体の団体のようでちょっと粗が目立つのですが、ライブという事である程度はしょうがない面もあり、それにアンサンブルはラフでもメロディーなどの表情の豊かさはなかなか高いレベルだと思いました。(2006/2/26)


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