G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」

1742年(ダブリン)初演版

指揮武久源造
演奏コンヴェルスム・ムジクス
国分寺チェンバークワイア
録音2002年4月17・18日
発売コジマ録音(ALM Records)
CD番号ALCD-1051/1052


このCDを聴いた感想です。


 この演奏、かなり変わったことををいろいろやっています。
 使用している版もそうですし、それどころか楽譜に書いてない変更をあちこちに加えています。
 その中でも、もっとも衝撃的だったのが第12曲の「田園交響曲」でした。
 もともとは弦楽器(それに管楽器も加わる場合もありますが)のメロディーが和音とともにゆったりと入ってくる曲ですが、武久源造の演奏では、和音が出てこず、オルガンやコントラバス辺りの非常に低い音が単音で弱く入ってきます。
 そこから、R.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」みたいに順番にオクターブ上の音が重なっていきます。正確には「ツァラ」の方は「ドーソードー」で、こちらは「ドードードー」とオクターブ違いの同じ音ですが、妙に神秘的なところといい、雰囲気自体は瓜二つといいたくなるくらいそっくりです。
 聞き慣れた田園交響曲の音楽とは全く違い、初めて聞いたときには、田園交響曲の前に何かオリジナルの曲のでも入れたのかな、と思ったほどです。
 聴き手の頭に疑問符を浮かべたまま曲が進み、オクターブ違いの音がある程度重なって低音から高音まで行き渡った次の瞬間、オクターブの間を埋めるように田園交響曲が分厚い和音で、割り込んで来るのです。
 そこまで来て、やっとこれはたしかに田園交響曲だと納得行きました。
 ちなみに、和音とともにメロディーが入ってきてからも、最初のオクターブで登場した音は結構大きく残っているため意外と強い存在感があります。まるで、どっしりとした床と固い天井があり、その間で音楽が繰り広げられているみたいです。
 さらに終わり方も、最後のワンフレーズを何度も繰り返しながら次第にフェードアウトしていき、そのまま次のレチタティーヴォに入っていくという、どちらかというとポピュラー系にありそうな終わり方で、ちょっと他では見たことがありません。
 始まり方といい終わり方といい、その印象はあまりにも強烈で、個人的には、この田園交響曲だけでも十分元が取れた気分です(笑)

 田園交響曲以外でも、あまり採用する人のいない初演版を使ったこともあり、他の演奏では見かけないマイナーな曲がいろいろ登場します。
 第6曲の「But who may abide the day of His coming」では、アルトと同じメロディーをバスで歌ったのではない、純正のバス版が使われており、それほど多く見かけるものではありませんし、
 第16曲の「Rejoice greatly,O daughter of Zion」も、12/8拍子バージョンというだけでも少数派なのに、しかもロングバージョンともなると、全部網羅しているマギーガン盤を除けば、マルゴワールの旧盤くらいしか他には知りません。
 第13曲から第14曲までの、レチタティーヴォとアコンパニャートが交互に歌われる部分も、レチタティーヴォを男声でアコンパニャートを女声と分けているのは、あまり聞きません。
 第34曲の「How beautiful are the feet」の二重唱+合唱というパターンも結構珍しいものでしょう。
 さらに、版の違いとしては表れない部分で珍しいと思ったのが、オルガンとチェンバロの扱いです。他の演奏でオルガンとチェンバロの両方が登場するものもたしかにあるんですが、大抵の場合、曲によって使い分けています。そこをこの演奏の場合はほとんどの曲で両者同時に登場しており、ちょっと面白い試みです。

 楽譜の違いがどうしても目に付きやすい演奏ですが、単に目新しいだけでなく、演奏そのものも、清清しい演奏です。
 小編成ではありますが、鋭いというよりもむしろ柔らかく、響きが横に広がっています。
 常に登場するオルガンの音色が、ミーという尖ったものではなく、どちらかというとポーという感じの丸いこともあって、平和で優しい雰囲気があり、その中でメロディーがのびのびと歌っています。
 実は、テンポはあまり一定ではなく、速いテンポの曲は少し速めぐらいですが遅いテンポの曲はかなり遅めで、しかも曲の中でも頻繁にテンポを動かしています。しかし小編成で反応が早く響きもスッキリと薄いため、テンポを動かしている割には重かったりくどくは感じません。
 テンポがよく動くのは、一つには楽譜に無いアドリブがあちこちに入っているためでもあるのですが、このアドリブが曲の楽しさを上手く膨らませているため、それに合わせてテンポが動いていても、気分良く聞けるのです。
 派手ではないのですが、晴れ晴れとした楽しい気分になる演奏です。

 そういえば、もう一点気に入った点がありました。
 それは合唱の発音で、例えば第7曲の「And He shall purify」の「purify」です。これを多くの演奏では「ピュオーリーファイ」と発音していますが(本当はそう発音してないのかもしれませんが、わたしにはそう聞こえます)、日本の演奏ではほとんどの場合、なぜか「ピューリーファイ」と、途中の「オ」を発音していません。
 どちらが正しい発音なのかはわかりませんが、わたしは最初に「ピュオーリーファイ」の方で慣れてしまっていたため、日本の演奏の場合は、これが気になって気になってしょうがありませんでした。なまじわずかな違いなだけに余計に耳に付き、いっそ、全く別のドイツ語か何かで歌って欲しかったくらいです(笑)
 それを武久源造の演奏では、慣れている通り「ピュオーリーファイ」と発音してくれたので、非常に嬉しい気持ちになりました。
 それにしても、日本での指導の関係なのかわかりませんが、なぜ日本だけ異なる発音なのか、しかもそれがまた揃いも揃ってそうなのか不思議です。
 わたしの知っている限りでは、武久源造盤以外に日本の演奏で「ピュオーリーファイ」と発音していたのは、バッハ・コレギウム・ジャパン盤だけではなかったかと思います。(2004/11/20)


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