G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」

プラウト編曲版

指揮トーマス・ビーチャム
出演ソプラノ:ドーラ・ラヴェット(Dora Labbette)
アルト :ムリエル・ブランスキル(Muriel Brunskill)
テナー :ヒューバート・アイスデル(Hubert Eisdell)
バリトン:ハロルド・ウィリアムズ(Harold Williams)
演奏交響楽団(ロンドン交響楽団)
BBC合唱団
録音1927年11・12月
発売Pearl(Columbia)
CD番号GEMM CDS 9456


このCDを聴いた感想です。


 まず最初にご注意頂きたいのですが、この演奏には一点重大な問題があります。
 実はこの演奏……最後の「アーメン・コーラス」が完全にカットされているのです。
 メサイアという曲は長い曲なので、その中の何曲かをカットするのはそれほど珍しいことではないのですが、さすがに最後のアーメン・コーラスをカットした演奏というのは他に見たことがありません。
 まるで、チャイコフスキーの交響曲第5番で最後の勝利の凱歌が無かったり、バーバ・ヤーガの小屋で終わる「展覧会の絵」のようなもので、締まらないことこの上ありません。
 わたしも初めて聴いて「forever and ever」が終わったところでCDが止まったのを見た時には、間違えて停止ボタンを押したのかと思ったくらいです。
 後でCDに収録されてないとわかっても、当然CD化する際の編集ミスに違いないと考え「Pearlもいいかげんな復刻をしているなあ」などと思っていました。ところが、いろいろ調べてみるとどうやらそうではなく、そもそも最初から録音されていないとわかり、驚きました。
 録音されなかった理由は録音時間の制約ぐらいしか考えられないのですが、だったらアーメン・コーラスをカットしようという発想が凄いですね。まったくビーチャムも何を考えていたのやら(笑)
 この演奏は、当時としては唯一の全曲録音で、しかも評判は良く「名曲決定盤」のあらえびすさんも絶賛しているのですが、アーメン・コーラスが無いのは気にならなかったんでしょうかね。
 それとも、戦後になってサージェントの録音(1946)が出るまで、長いこと完全独占状態でしたから、みんなそういうものだと思っていたのでしょうか。
 内容については、当時は評価が高かったのでしょうが、今聞くと録音の悪さが耳について、なかなか内容の良さが伝わってきません。
 使っている版がモーツァルト版並みに楽器を大幅に増やしたプラウト編曲版なので、本当はかなり華やかな響きになるはずですが、オーケストラが全体的に埋もれがちなのでそれほど派手ではなく、テンポもあまり動かさず速めでキープしていることもあって、むしろ時代の割にすっきりとしている印象を受けます。ただ、さすがに現代の演奏と違って、徹頭徹尾テンポを保っているわけではなく、時々突然変異したみたいにテンポを急に落としたりと強調したいポイントは思い切ってデフォルメしてあるため、ちょっと大げさ過ぎるもののすっきりとした中にもメリハリはついてます。
 この録音の主役は、オーケストラよりもむしろ歌手の方でしょう。
 録音のバランスとしても、ソロ一人でオーケストラ全体に対抗できるくらい大きく、しかも鮮明です。おそらく一人にマイク一本がちゃんと割り当てられているのではないでしょうか。
 ソロの歌い方は、表情は豊かですがオペラみたいに感情丸出しでもなく行き過ぎの一歩手前で抑えた、堂々と歌いきっているソロです。
 もっとも、まだソリストの力が強かった頃のようで、興に乗ってくるとだんだんテンポを無視し出して、前に突っ込む後ろに引っ張るなど心の赴くままに歌いこみ始めます。いや、案外それはビーチャムの指示で単にバックのオーケストラが付いて来れなかっただけかもしれませんが(笑)
 それでも個人的には、このソロが聴けただけでもCDを買った価値があったと思ったほどです。

 この演奏で、非常に残念なのが録音です。
 まず音が良くない。
 オーケストラなどの伴奏は埋もれて細かい部分がほとんどわかりませんし、雑音が多くひどく聴き辛い音です。
 1927年当時で大編成の曲ですからある程度は仕方ないとはいえ、ちょっと限界に近いのではないでしょうか。
 さらに編集もかなり疑問があります。
 曲の途中で、レコードを入れ換えたみたいに急にフェードアウトしていったん空白が入り、またフェードインしてその続きが演奏されます。
 これはもしかしたらビーチャムがそう演奏したのを忠実に再現しているだけかもしれないので一概に編集のせいかどうかはわかりませんが、少なくとも聴いている身としては流れが真っ二つに分断されていてどうも違和感を覚えます。
 Pearlの復刻は、基本的には高く評価しているのですが、たまにとんでもない食わせ物があったりするため、一度、Andante辺りが復興したCDで聴いてみたいものです。


 また、演奏している団体はCD表記上は単なる『交響楽団』となっていますが、実体はロンドン交響楽団のようです。(2004/7/3)


サイトのTopへ戻る