G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」

エベナツァー・プラウト(Ebenezer Prout)編曲版

指揮マルコム・サージェント
出演ソプラノ:イゾベル・バイリー
コントラルト:グレイディーズ・リプレイ
テナー :ジェイムズ・ジョンストン
バス  :ノーマン・ウォーカー
演奏リヴァプール・フィルハーモニック管弦楽団
ハダースフィールド合唱協会
録音1946年7月12〜17日、9月26日
発売DUTTON(Columbia)
CD番号2CDEA 5010


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、あまり使われない『エベナツァー・プラウト(Ebenezer Prout)編曲版』による演奏です。
 編曲した、エベナツァー・プラウトという人は、1835年に生まれて1909年に亡くなった人で、作曲家兼オルガン奏者で、教育者でもあったようです。
 このメサイアの編曲の発行年が1902年らしいので、原稿が物置の隅にでも放って置かれたのでも無い限り、少なくとも完成は晩年ということになります。
 メサイアの編曲は、有名どころではモーツァルト。20世紀に入ってからはビーチャムが録音を残した、グーセンス版辺りが知られていますが、同じ20世紀に作られた編曲でも、グーセンス版が第2次大戦後であるのに較べ、このプラウト版は20世紀の頭ですから、グーセンス版よりも大分前に作られたわけです。
 この版は、モーツァルト版をベースに手を加えた物らしいのですが、細かい部分ではそこかしこに違いがあり、むしろ、後のグーセンス版の方により近い響きが聞こえる事も少なくありません。
 ……まあ、その一因は、大編成のオーケストラという点で共通している点にもあるのですが(汗)
 ただ、この演奏は残念な事に録音があまり良くなく、細かい部分がよく聞こえないため、聴き取り損ねた音も多くあるものと思います。
 それでも、まだ弦楽器と独唱者及び合唱団はかなりマシな方なのですが、特に管楽器が木管、金管を問わずに埋もれがちでよく聞こえなかったのは残念でした。
 管楽器が単独で演奏している時はともかく、弦楽器と合唱等と一緒に演奏する時には、ほとんど隠れてしまっています。
 こういうあまり当てにならない環境ですが、聴いた限りでは、モーツァルト版よりも音を減らして絞り込んであるような印象を受けました。
 楽器の種類自体は、おそらくモーツァルト版よりも多いのでしょうが、常にダラダラと流し続けるのではなく、ここぞという部分に重点的に登場させてメリハリをつけています。
 特に、モーツァルト版で不可解だった、第3部の『ラッパが鳴りて〜』の妙な編曲は、原曲に近い形に戻してあり、終曲の弦楽器と打楽器によるフォルテの全合奏に対する、管楽器の力の抜けそうな合の手も、原曲通りに戻してカットしてある点も、嬉しいところです。
 逆に、第2部の5曲目の『我らはみな羊のごとく〜』の中間ぐらいで、グーセンス版とモーツァルト版の両方に入っていた、管楽器(グーセンス版はオーボエ、モーツァルト版はフルート)による、八分音符のスタッカートで同じ音をタッタッタッタ……と吹く音型が無くなっているのは、非常に残念です。個人的には、結構好きでしたので……
 管楽器等の楽器の種類としては、時代が近い事もあって、グーセンス版とほぼ同じで、現代の3管編成のオーケストラ並だと思います。
 もっとも、グーセンス版とは打楽器の種類が大違いで、この版がティンパニーぐらいしか使っていないのに対して、グーセンス版では、ティンパニーはもちろんの事、バスドラム、シンバル、さらにはトライアングルまで使われています。
 そのため、『ここ一番』での破壊力となると、さすがにグーセンス版の方が数枚上のようです。
 もう一つ、ついでに書いておきますと、この版にはカットがあります。
 第2部に3曲、第3部では4曲もカットされています。第3部なんかはただでさえ短いのにその上4曲もカットされているものですから、さらに短くなってしまい、バスソロの『ラッパが鳴りて〜』アリアの次に、すぐ終曲が来てしまっています。

 さて、版の問題はともかく、演奏の方ですが、かなり堂々とした押し出しの立派な演奏です。
 いかにも、現代楽器によるフル編成のオーケストラによる演奏といった感じで、華やかな雰囲気もあります。
 編成の大きさを生かして、ダイナミクスも大きく取られていて、特にフォルテになった際は、録音の悪さを忘れさせるぐらいのどっしりとした迫力が感じられます。
 さらに印象に残ったのが独唱陣です。
 とにかくメロディーをよく歌っています。
 全員自らの表現力を目一杯使っていて、ビブラートも多用し、聴き手にどんどん訴えかけてきます。
 しかも、それだけ表現を広くしているのにもかかわらず、高音から低音まで声がほとんど痩せない点も魅力です。(2003/1/18)


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