指揮 | アンドルー・デイヴィス |
出演 | ソプラノ:キャスリーン・バトル メゾ・ソプラノ:フローレンス・クィヴァー テナー :ジョン・エイラー バス :サミュエル・ラミー |
演奏 | トロント交響楽団 トロント・メンデルスゾーン合唱団 |
録音 | 1987年 |
発売 | 東芝EMI |
CD番号 | CE30-5109・10 |
この演奏は、一般的にはビーチャムが録音したグーセンス編曲版による演奏という事になっていますが(そもそもCDについていた解説書にもしっかりグーセンス版による演奏と書いてあります)、わたしが聴いた限りでは、この演奏はグーセンス版による演奏ではありません。 たしかに古楽器等の演奏と較べると、派手目ではあるのですが、楽器の追加にしてもせいぜいオルガン程度で、グーセンス版のような管楽器や打楽器の追加はありません。それに、オルガンであれば、とくに編曲したとは書いていない演奏でも、加えている演奏もありますし、逆にグーセンス版には無かったと思います。 さらに、グーセンス版では頻繁に見られた、メロディー等の音符の追加も、この演奏にはほとんどありません。 要するに、この演奏は、編成が大きい事を別とすれば、ほとんど原典通りといっても良いでしょう。 これだったら、モーツァルト版はもちろんの事、原典版の一部の演奏の方が、よっぽどグーセンス版に近い演奏です。 それに、そもそもグーセンス版の楽譜は、現在行方不明なので、演奏は不可能なはずです。 たしか、何年か前に日本のとある団体が、グーセンス版の再演を試みたらしいのですが、肝心の楽譜がどこに存在するのか全く不明で、結局は諦めたと聞いています。 一方、グーセンス版云々を完全に無視して、演奏だけ聞いてみると、これはこれで良い演奏です。 最近主流の、古楽器等で多く見られる小編成での機能性の高い演奏ではなく、大編成による典型的な演奏です。 特にフォルテの部分では、大編成というアドバンテージを活かして、迫力のある音楽を作り出しています。 ただ、迫力があるといっても、単なる力押しではなく、全体としては、むしろ柔らかめのフワッとした感触があります。 しかし、外側は柔らかくとも、内側は芯がしっかりしているため、音が充実していて、フォルテの際にちゃんと迫力が感じられるのです。 まさに、外柔内剛といったところでしょう。 さらに特筆しておきたいのがオルガンです。 この演奏は、通奏低音を個々の曲によってチェンバロとオルガンで使い分けています。 その割合はほぼ半々なのですが、使われ方は非常に効果的です。 例えば、コーラスが和音で音を伸ばしている部分などで、背後にオルガンが加わる事で、雰囲気がグッと崇高さを増して、神々しくなるだけでなく、そびえ立つような壮麗な雰囲気まで感じられます。 しかも、オルガンが加わるバランスも、これがまた絶妙なのです。 音量が小さ過ぎたら効果は半減しますし、逆に大きすぎてオルガンがオーケストラ以上に目立っても、これはまた違和感が生まれます。 デイヴィスは、小さすぎでも大きすぎでもない、その境目のギリギリ部分のバランスをピンポイントで掴まえる事で、オルガンを最も効果的に響きに活かしています。 実は、この演奏、歌手の方もキャスリーン・バトルを始めとして有名どころが揃っているのですが、なぜかあまり印象に残っていません。 どうも、オーケストラの印象があまりに強かったため、そちらの方ばかり注目してしまい、歌手の方まで注意が行かなかったようです(汗)(2002/12/13) |