G.ビゼー 「アルルの女」組曲

指揮レオポルド・ストコフスキー
演奏フィラデルフィア管弦楽団
録音1929年5月4日,13日
カップリングビゼー 「カルメン」組曲 他
「STOKOWSKI CONDUCTS FRENCH MUSIC-2」の一部
発売Biddulph(Victor)
CD番号WHL 012


このCDを聴いた感想です。


 ストコフスキーのフィラデルフィア時代の録音です。まだ若い頃ということもあってか(といってもすでに47歳ですが)、わりとすっきり直線的な演奏です。その一方で、ここぞというところでは大きくテンポを落としたり、音を強調するなど、見せ場をつくるあたり、ストコフスキーらしさもすでに表れています。
 直線的な特徴が出ているのが前奏曲の前半などの速いテンポの部分で、音も短めに切って、引き締まった音楽になっています。表情付けもストコフスキーにしてはストイックといってよいほどです。第2組曲のパストラーレの中間部の速い部分(そもそも第2組曲はこのパストラーレの中間部分しかないのですが)などもその典型で、タンブーランの鋭いリズムに乗ってテンポよく進んでいきます。この部分は、和音の変化によって響きが次々と変化していきますが、この切り替えもパッパッとスイッチをひねるように瞬時に切り替わり、ことさらその切り替えを強調したりしません。メロディーも歌いすぎず、むしろそっけないくらいです。しかしその表情を抑えたところが自然で、和音の移り変わりによる響きの色合いの変化が直に伝わってきます。たしかに部分的にポルタメントが登場したりもしますが、それもあまり強調せず、音の滑らかな移り変わりぐらいに抑えてあり、効果を狙ったような演出はほとんどありません。
 ただ、速いテンポでも、ここが重要と思われる部分では、思い切った演出をする場合もあります。
 例えば、前奏曲では第76小節辺りで、ppからffに至るために大きく盛り上げる必要があるところでは、金管の和音を一音一音クレッシェンドを掛けて膨らませることで強調したり、メヌエットの冒頭のように、曲の始まりとして裏拍ながら重要な音は、テンポをいったん止め長く引き伸ばした上に、クレッシェンドまでさせています。しかも、曲に入ってからは、冒頭とは逆にメトロノームのようにきっちりとしたテンポで進めていくことで、冒頭の強調が薄まらないように上手く対比させています。
 こういう風に、一見極端な演出と、きっちりとした部分の組み合わせて双方を良く聞かせるというのもストコフスキーの上手さだと思います。
 さらに、アダージェットなどのテンポの遅い部分は、これはもうストコフスキーらしさが全開です。
 粘りに粘ってじっくりと聞かせます。メロディーが歌いこむのは当たり前ですが、さらに輪をかけているのが強弱のダイナミクスの変化です。
 ストコフスキーは、おそらく音楽上でどこが盛り上がりの頂点になるのか、さらにそれをいかに効果的に聞かせるかをかなり重視しているのではないでしょうか。
 音楽が全体として、頂点に向かってpからfに向かってクレッシェンドしていくのは当然ですが、その上、個別に音の中で強弱を変化させています。そのため、針小棒大というか 、メロディーのちょっとした起伏も大きく拡大して、天保山や高尾山のはずが、まるで八ヶ岳や穂高にでもなったかのように山と谷に差をつけています。
 ただ、それだけに音楽は劇的で、アダージェットにこれだけドラマを見出せるとは、正直驚きました。同じようにいろいろ動かすタイプのメンゲルベルクのアダージェットが耽美的なのに比べ、より動きが感じられる演奏です。

 ストコフスキーの「アルルの女」組曲の録音は、このフィラデルフィア管との録音の他に、戦後のモノラル時期に「彼の交響楽団」と録音したものと、ステレオ録音になってからナショナル・フィルと録音したものがあるようです。
 また、この録音は、第1組曲と第2組曲の全てではありません。第1組曲は全4曲あるものの、第2組曲は、上記にあるように「パストラーレ」のしかも中間部分(約2分)だけです。せっかくですから第2組曲も全4曲残しておいて欲しかったものです。ファランドールは速いテンポなのである程度想像付きますが、他の間奏曲やメヌエットなどがどうなるか、いや、正確にはどこまでやってくれたのか、いろいろ妄想が膨らむところです。(2010/9/18)


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