G.ビゼー 歌劇「カルメン」

指揮フリッツ・ライナー
出演カルメン:リーゼ・スティーヴンズ
ホセ:ジャン・ピアース
演奏RCAビクター管弦楽団
ロバート・ショウ合唱団
録音1951年5・6月
発売BMG(RCA)
CD番号7981-2-RG


このCDを聴いた感想です。


 ライナーが歌劇を指揮したというと、一瞬「珍しいなあ」などと思ってしまいましたが、よくよく考えるてみると全くそんなことはないんですよね。
 そもそも指揮者としてのスタートは歌劇場からですし、晩年に近い1953年までメトロポリタン歌劇場の指揮者を務めていたりと、常に歌劇とかかわりを持っていました。ただ、残された録音の多くが交響曲などの管弦楽曲だったため、ついついコンサートが活動のメインの指揮者とイメージしてしまいました。
 といっても、演奏については、コンサート指揮者だからとかオペラ指揮者だからといって特に変わるわけではありません。
 わたしもこのカルメン以外のライナーの歌劇の演奏を聴いたことが無いので、どの曲でもそうなのかはわかりませんが、少なくともカルメンを聴く限りでは、コンサートだろうがオペラだろうが、やっぱりライナーはライナー以外何者でもありませんでした。
 締まった響きと音のキレの良さ。これは管弦楽曲の時と全く一緒です。
 テンポの揺れといった遊びはあまりなく、隅々まできちんと整って折り目正しく進んでいきます。どちらかというと自由度の高い歌劇よりも楽譜からあまり外れない管弦楽曲を思い起こさせるような演奏ですが、これは録音がライブではなくスタジオ録音という点も影響しているのかもしれません。
 初めて聴いたときなんか、あまりの締まり具合になんだか息苦しく感じました。
 さらに、前奏曲のシンバルがひどく抑え目で、その上鳴らした後、余韻を残さず短くパッと切っていたこともあって、地味で面白みのない演奏だと思ったぐらいです。
 まあ、聴き進むと、歌や合唱はガヤガヤとした雑踏のざわめきが入っていたりと臨場感の高いもので、これが締まった響きとうまく補完し合ってバランスが取れていることがわかり、なるほどと納得しましたが。

 ちなみに、カルメンに付き物の『版』ですが、録音当時(1951年)ではもっとも一般的であったであろうグランド・オペラ版(ギロー版)を使っているようです。
 これは、最近のアルコア版やコミック・オペラ版では普通の会話になっている、場面と場面のつなぎも全て歌(レチタティーヴォ)でつなぐタイプで、リアリティはちょっと薄くなりますが、細部までキチッとしているライナーにはよく合っています。
 さらに、昔のグランド・オペラには付き物のバレエまで入っています。
 これは第4幕の冒頭の物売りの場面と前奏曲の有名なメロディーで始める闘牛士一行の入場の場面の間に入っており、本来は楽譜に無いものです。
 グランド・オペラ版を採用している演奏でも、そこまでやっていないものも多いのですが、わたしの知っている限りではメリク=パジャエフ/ボリショイ歌劇場管が入れています。ただ、ライナーの場合、曲は、同じビゼーの歌劇「美しきパースの娘」から「ジプシーの踊り」と歌劇「アルルの女」から「ファランドール」の2曲だけです。たしか他の指揮者にも「ジプシーの踊り」だけ入れた演奏もあったような記憶がありますが、誰だったかはちょっと忘れてしまいました。
 この第4幕ですが、実は、ライナーの演奏は、他の演奏と全く違う点があります。
 それは、冒頭の物売りの場面の歌詞です。
 物売りというだけあって、普通の演奏の歌詞は『2クワルト(お金の単位)だよ! 扇子、オレンジ、プログラム、ワインに水にタバコ、さあいかが。たった2クワルトだよ!』とまあ、多少の違いはあっても、そういう商売気120%の売り子たちが熱心に客引きしている様子を表しています。
 しかし、この演奏の歌詞は『踊ろう、踊ろう! 少年少女たち、くるくると踊ろう。タンバリンを振ってカスタネットを鳴らし、手を取り合って力強く愛くるしく踊ろう。紳士淑女諸君、闘牛士一行のための道を開けよう』(わたしの訳なのでかなりいい加減ですが)という、大きく異なるものです。
 聴く前は、そんな違いがあるなんて全く知りませんでしたが、フランス語に疎い自分ですら、聞いた瞬間にアレッ?と驚くぐらい、聴いた感じからして丸っきり違います。
 この場面は、中間にスニガ(軽騎兵隊の将校。脱走前のドン・ホセの上司)が『オレンジを一つ』と売り子に呼びかける台詞があるのですが、この演奏ではその台詞が無く伴奏だけで、スニガの呼びかけを受けて売り子達が『ありがとう将校さん』と答える部分から、急に歌が入って来る(もちろん歌詞は全く違います)ので、これもちょっと妙な感じがします。
 こういう歌詞に変えている演奏は他には聴いたことが無く、もし映像が入っていたらどういう演出にするつもりだったのだろう等といろいろ興味が湧いてきます。

 ところで、気になるといえば、演奏している「RCAビクター管弦楽団(RCA Victor Orchestra)」という団体も気になります。
 この名称は「コロンビア交響楽団」と同じで、契約上名前の出せないオーケストラが便宜上名乗る場合も多く、実体は別のオーケストラということもよくあります。
 さらに、別の演奏で「RCAビクター交響楽団」とか「RCA交響楽団」とか名乗る団体もあり、それはこの「RCAビクター管弦楽団」の同じ団体の別名称なのか、それとも全く別のオーケストラなのか、はたまた実体は別でも本名を名乗れずにRCA名にしているという点では同じ系統なのか、疑問は深まるばかりです。
 実際のところ、実体が何であろうと、鑑賞には全然支障ありませんし、どこだっていいじゃないかという話なのですが、まあマニア的好奇心をそそられる謎なのです。(2005/8/27)


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