G.ビゼー 歌劇「カルメン」

指揮ペーター・マーク
出演カルメン:フィオレンツァ・コソット
ホセ:マリオ・デル・モナコ
演奏フェニーチェ劇場管弦楽団
フェニーチェ劇場合唱団
録音1971年4月22日
発売MONDO MUSICA
CD番号MFOH 10031


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、デル・モナコを聴くために買ったようなものです。

 と、それだけ期待して買ったのですが、正直言って、この演奏のデル・モナコは、どうも今一つでした。
 やはり、年齢のせいでしょうか。同じカルメンのドン・ホセ役を演じた1959年のモスクワでのライブや、1963年のシッパースとのスタジオ録音に較べ、声から輝きがだいぶ薄れてしまっています。
 それでも、高音での声の太さや、ハンマーみたいなガツンとしたアタックに続いて真っ直ぐに伸びる声(これを黄金のトランペットと言うのでしょう)は、さすがに存在感があります。
 しかし、この演奏で、わたしがデル・モナコ以上に印象に残ったのが、カルメンのコソットの声です。
 この人の声は、とにかく張りがあり、特にピアノからメゾフォルテぐらいの弱目から中くらいの強さで中低音の音域は、声の響きが豊かで、さらに表情に柔らかさがあります。
 あんまりカルメンらしい妖艶さは無いものの、節回しは滑らかで、なにより、他の歌手に較べて圧倒的な存在感を感じます。
 ただ、その一方で、高音では急に声が硬くなり、さらにフォルテになると荒くなってしまうのが、少し惜しいところです。

 オーケストラのフェニーチェ劇場管というのは、ヴェネチアにあるフェニーチェ劇場のオーケストラなのですが、腕前の方は、怪しげな部分が随所に見られるものの、結構揃っている部分も多く、全体的にはまあまあといったところでしょう。
 しかし、この演奏を聴いていると、オーケストラと歌手を合わせるのがいかに大変かという事がよくわかります。
 おそらくライブの一発録りだと思うのですが、テンポが一定の部分はまだしも、歌手がテンポを大きく伸び縮みさせる部分では、なかなか上手く合いません。
 オーケストラが遅くなってしまい、慌ててテンポを巻き上げたり、逆に歌手の方が遅くなったりと、四苦八苦しています。
 オーケストラの内部ではテンポが動いてもアンサンブルはそんなに崩れていませんし、オーケストラと歌手の両者とも、お互いに合わせようと努力しているのはよく伝わってくるのですが、合わせよう合わせようと気にするあまり、妙に不自然な間が出来てしまう部分もありました。
 オーケストラも、劇場に付属するオーケストラなんですから、そういう事には慣れている筈なんですけどねぇ(笑)

 さて、カルメンで使用される楽譜は、大きく分けて、場面と場面の間をセリフで繋ぐ版と、レチタティーボで繋ぐ版の二つがありますが、この演奏では、レチタティーボで繋ぐ、「グランド・オペラ版」が使われています。
 ただ、グランドオペラ版といっても、細部にはいろいろ手が加えられていて、第1幕のホセとミカエラの二重唱が半分カットされていたり、第3幕の決闘のシーンが半分だったり、第4幕の幕が相手からすぐの、雑踏のシーンがカットされています。
 逆に、第4幕の直前の間奏曲(アラゴネーズ)の後に、おそらくバレエが挿入され、美しきパースの娘から「ジプシーの踊り」とアルルの女から「パストラール」と「ファランドール」、そして何故かもう一度アラゴネーズが演奏されます。
 考えてみれば、アラゴネーズ以外の3曲は、デル・モナコのモスクワでのライブの演奏に入っていた曲と全く同じです。
 もしかしたら、イタリアでは、そういう演奏が一般的だったんでしょうか?(笑)
 また、歌詞は全てイタリア語で歌われています。

 最後に、このCDで、どうしても言及しておきたいのが録音状態です。
 いや、録音状態というよりも、リマスタリングのせいなのでしょうが、これがとんでもなく変なのです。
 元はおそらくモノラル録音だと思うのですが、左右のスピーカーからは別の音が聞こえます。
 どういうことかといいますと……早い話が、左のスピーカーからはオーケストラ、右のスピーカーからは歌が聞こえてくるのです。
 ようするに、完全に、オーケストラと歌が別になっているのです。
 となると、オーケストラと歌を別に録音して、後で合成したかとも思いましたが、それにしてはお互いに合わせようとしていますし、観客の拍手も後から加えたのではなく、演奏に合わせた拍手のように聞こえます。
 そうなると、あまり可能性は高く無さそうですが、実は、この劇場は、舞台とオーケストラが、完全に左右に分かれていて、そのために、左と右は別々に聞こえるぐらいしか考えられないのですが、それも変ですし。
 また、歌とオーケストラが左右に分かれているだけでも変なのですが、これが、オーケストラのみ、歌のみの部分だと、音が真ん中から聞こえ、しかも、広がりのあるステレオっぽい音なのです。
 で、オーケストラだけの前奏に途中から歌が重なってくると、それまで中央から聞こえていたオーケストラが、急に左に寄るという、非常に変なつくりになっています。
 この妙な録音でさえなければ、抵抗無く普通に聞けるのですが(汗)(2003/5/3)


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