指揮 | アンドレ・クリュイタンス |
出演 | カルメン:S・ミシェル ホセ:R・ジョバン 他 |
演奏 | パリ・オペラ・コミーク管弦楽団 パリ・オペラ・コミーク合唱団 |
録音 | 1950年9月6〜9日 |
発売 | EMI |
CD番号 | CMS 5 65318 2 |
とにかく、ドイツやアメリカ等と較べて、発声から全然違うのには驚かされました。 これがフランス風というものなのでしょうか? 例えば、他の国の歌い手が声を出すときは、より響くように、より深みを出すように、といった点に絶えず注意を払ってると思います。 ところが、このオペラの歌い手は、声を響かすことを考えていないとは思いませんが、少なくとも深みを出そうとは考えていないのではないだろうかと思えてきます。 むしろ逆に、深みを無くすことで、小悪魔のようなコケティッシュな魅力が感じられるのです。 この歌い方は、鼻に響かせて、ビブラートを非常に激しくかけているのが特徴で、例えば、第1幕冒頭のモラーレスのソロのメロディーの最後の伸ばしている音にもよく表れています。 実際、この伸ばしの音一つとっても、そのたった一つの音ですら十分魅力があります。 いや、男のセリフに対しての感想としてはかなり変ですが、実に『色気がある』のです。 しかし、こういう歌い方というのは、フランスではちゃんと残っているのでしょうか? わたしも最近の演奏をあまり知らないのですが、聴いた事が無いような気がします。 他とは全く異なる魅力があるだけに、廃れて欲しくないですね。 オーケストラの方では、一番印象的だったのはホルンの音色です。 これもまたビブラートを盛大に効かせた鼻にかかったような音色で、他の国のオーケストラでは全く無いような音です。 例えば、第3幕の頭の『密輸入者の行進』の冒頭の伸ばしの音とか、同じく第3幕の終りで、ホセの最後の『だが、またすぐ逢おうぜ』というカルメンに対する捨て台詞の直後のffのメロディ辺りに特徴がよく表れています。 特に、後者のffのメロディーの方は、音がほとんど割れかけているため、まるで猛獣の咆哮のように響き、非常にインパクトがありました。 また、それ以外でも、ここ一番での強烈なアタックが印象に残っています。 これも、第3幕になるのですが、ホセとエスカミーリョが決闘方法を決めるシーンで、ホセが『決闘はナヴァハの方法で!』と叫ぶセリフがあります。 ここで、オーケストラがホセのセリフを受けて、全楽器が一斉にffの8分音符で「バン!」と叩きつけるようにアタックを入れるのですが、この音は、他のカルメンのどの演奏よりも、このクリュイタンスの演奏が一番強烈な印象を受けました。 考えてみれば、この演奏は1950年の録音ですから、それほど音が良いわけではなく、後年のステレオ録音の方がもっと音は鮮明な筈なのですが、なぜかこの演奏ほどのインパクトが感じられません。 やっぱり、迫力の差なんでしょうか? ところで、カルメンという歌劇には、大きく分けて二つの版があります。 一つは『グランド・オペラ版』で、ビゼーの死後、友人のギローが編曲したもので、セリフが全てレチタティーボ(歌)になっているのが特徴です。古い演奏は大抵これになります。 もう一つは最近できた『アルコア版』で、ビゼーの原曲にできるだけ近づけた形です。レチタティーボではなくセリフになっているのが特徴です。 カルメンの演奏は、基本的にそのどちらかに当てはまるのですが、このクリュイタンスの演奏は、そのどちらでもありません。 レチタティーボではなくセリフという点では、アルコア版と同じですが、この演奏当時は、まだアルコア版はありませんでした。 それでは何かと言うと、実は『オペラ・コミーク版』という、グランド・オペラ版のレチタティーボをセリフに変えたような版なのですが、わたしが聴いた限り、アルコア版とほとんど差が無いように思います。 たしかに、他のアルコア版の演奏と較べると、異なる点もいろいろあるのですが、そもそも同じアルコア版を使った演奏同士でさえ、一つとして同じ演奏が無いぐらいなので、それほど大きな違いには見えません(笑)(2002/4/12) |