F.v.スッペ 「ウィーンの朝・昼・晩」序曲

指揮ポール・パレー
演奏デトロイト交響楽団
録音1959年11月29日
カップリングスッペ 喜歌劇「美しきガラテア」序曲 他
発売Mercury
CD番号434 309-2


このCDを聴いた感想です。


 驚きのあまり本気で「ええーっ!?」と声を出してしまいました。
 といっても、演奏や曲そのものについてではありません。いや、曲のことには違いないのですが、正確には曲の総譜(スコア)を見た瞬間にです。
 正直言ってこんな楽譜初めて見ました。
 指揮者が使い、一般的に市販されている総譜というものは、当然のことながら全ての楽器(パート)が記載されています(簡易的なものだと数段に全ての楽器をまとめたコンデンススコアという例外もありますが)。縦にそれぞれの楽器が並んでいて、音楽の進みに沿ってどんどん横に見ていきます。その楽器の並び順というのは、現在出版されている総譜であれば、ほとんどの曲ではそれほど大きくは違いません。本当にバリバリの現代音楽には絵画的に描かれた楽譜もありますがそれは例外中の例外です。
 一般的な並び順では、一番上が木管楽器のグループ(上からフルート属、オーボエ属、クラリネット属、ファゴット属)、中間が金管打楽器のグループ(上からホルン属、トランペット属、トロンボーン属、チューバ属、各種打楽器)、下が弦楽器のグループ(上から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、最下段がコントラバス)となっています。作曲家によって、例えばプロコフィエフ辺りはトランペットがホルンより上にくるなどの、多少の入れ替えはあるものの、それほど極端には変わりません。これに加え、合唱などの声楽が入る場合、ヴィオラとチェロの間に入れることが多いようです。
 で、この「ウィーンの朝・昼・晩」の楽譜ですが、いきなり最上段に第1ヴァイオリンが来ています。一方最下段はというと、こちらはコントラバスのままです。
 もちろん、この曲が弦楽だけの編成なんてわけはなく、当然木管楽器、金管楽器もあり、打楽器もティンパニーだけでなく、スネアドラムや大太鼓まで入っています。
 だったら、その楽器群はどこに記載されているかというと、全てがヴィオラとチェロの間に押し込まれています。要するに普段合唱が記載されている位置ですね。ただ、そこに全てが入ってくるため、ヴィオラとチェロの間がとてつもなく広がり、弦楽器が最上部と最下部で、饅頭の薄皮のごとく、かろうじて他の楽器群を包み込むような形なっています。
 さらに管楽器の中での並び順もおかしくなっています。基本は音が高い楽器が上に来るので、フルートとピッコロでは、ピッコロがフルートの2番奏者の持ち替えでない限り、ピッコロの方が上に来ます。ところがこの総譜では、なぜかフルートの方が下にあります。そもそも楽器名が「Ottavino」と書いてあるものですから、見た瞬間は、現在では既に廃れた特殊楽器か何かかと思ったぐらいです。
 さらに輪をかけてすごいのがファゴットで、なぜか金管楽器グループの中に入り込み、トランペットとトロンボーンの間に鎮座しています。低音楽器系統ということで一つにまとめられてしまったのでしょうかね。その割りに、チェロやコントラバスとは、間に打楽器が入るため分断されていますが。
 ただ、やはり何といっても一番の違和感は、上にも書いたヴァイオリン・ヴィオラが上にあることに尽きます。どうしても弦楽器は下の方という固定観念があるため、フルートよりもさらに上というのは、どうにも落ち着きません。そもそも弦楽器全体を見るときに、これだけ上下に離れていては見難くてしょうがありません。
 しかも、困ったことに、これだけ楽器が上下入れ替わっているにもかかわらず、楽器名が記載されているのが最初の1ページ目だけなのです。ト音記号やハ音記号の音部記号や、同属をくくった括弧でなんとか楽器を特定できるものの、一瞬で判別するのはかなり困難です。
 曲自体は、スッペらしく明快な曲なのに、総譜の方は追うだけでも一苦労です。
 ちなみに、わたしの持っている総譜は、ドーヴァー(Dover)社のスッペ序曲集というもので、「ウィーンの朝・昼・晩」以外に、「詩人と農夫」序曲など4曲も収録されています。では、その4曲も変な並びかというと、これがそうではないのです。「詩人と農夫」序曲で、ファゴットがトランペットとトロンボーンの間に入ってはいるものの、変なのはそこだけで、後は至ってまともな順序に記載されています。
 では、なぜ「ウィーンの朝・昼・晩」だけ特殊なのかというと、どうやらオリジナルの楽譜の出版社の違いによるもののようです。
 ドーヴァー社の総譜の愛好家ならよくご存知でしょうが、ドーヴァー社の総譜は、ドーヴァー社自身が譜面を作ったわけではなく、過去に他の会社から出版されたものの中で、権利期間が過ぎたものを集めてきて、その代わり格安で提供してくれている出版社です。
 そのため、権利関係によるものか、はたまた手間を省いただけかはわかりませんが、過去の出版譜をレイアウトも変えずにそのままそっくり転載する形を取っています。
 そう、スッペの序曲集の中で「ウィーンの朝・昼・晩」だけ別の出版社から出ていた物を持って来ているためレイアウトが全く異なっているのです。
 ただ、そのオリジナルの出版元(C.F.W.Siegelという出版社のようです。ベートーヴェンの第9番のファクシミリ譜を最初に出したキストナー&ジーゲル社と同じ会社でしょうかね?)がそもそもなぜそんな変わった並び順にレイアウトしたのかは不明です。
 これは勝手な推測ですが、昔は現在の楽器の並び順とかなり違う書き方をしていたそうなので、それをそのまま印刷譜に起こしたのではないでしょうか。もっとも、学術的な意味合いの強い自筆譜ならともかく、総譜は本来、演奏の助けとする実用目的で使用するものですから、使いやすいように現代風の並びにして欲しかったところです。

 さて、演奏の方ですが、パレーらしい軽快なものです。
 単にテンポが速いだけでなく、リズムに良く乗っているため躍動感があります。
 華やかな曲調に合わせた鮮やかな響きで、それでいて軽くカラッとしています。楽しい雰囲気が良く表れていて、初夏や秋頃の気候のように、爽快な気持ちになってきます。(2011/10/29)


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