F.シューベルト 交響曲第9番 ハ長調 <ザ・グレート>

指揮アタウルフォ・アルヘンタ
演奏セント・ソリ管弦楽団
録音1957年11月8日
発売IMG Artists
CD番号5 75097 2


このCDを聴いた感想です。


 風のように軽くスピード感のある演奏です。
 大編成による演奏ですが、ドイツ系などの団体と違って、響きに重厚感や厚みはほとんどありません。
 しかし、横へ横へと大きく広がり、薄いカーテン状の響きが、山から麓へ下りてくる風のように、スピードに乗って流れてきます。
 サラサラとした感触で、それに各楽器の華やかな音色が彩りを加えています。
 この音色は、薄くて、弾けるように鮮やかな色合いがあり、さらに歌い方もビブラートをたっぷりとかけて歌いこんでいます。
 いかにもフランス系という音で、もう冒頭のホルンのソロからドイツ系などのオーケストラの演奏とは全く違います。
 他の演奏にあるような深い音色でじっくりと、あるいは感情を抑えたストイックなものではなく、出てきた瞬間の音からして鼻から頭のてっぺんに抜けていくような軽く漂う音色です。それにフワフワとビブラートがかかり、いきなり幸福感絶頂といった感じの音楽になっています。
 まるで宙に浮いているような柔らかい雰囲気で、遅い序奏の間はずっと続き、ちょっとパステル調といった感じの、どちらかというとわりと淡めの色合いです。
 それが序奏から速いテンポの呈示部に入るところで、一気に音色がギラギラと輝き、キレのあるスピード感あふれる音楽に変わります。この変化が非常に鮮やかなのです。まるで朝もやの中から太陽が顔を出した瞬間にあっという間に晴れ渡る様子を見るようで、気持ちが大きく高揚してきます。
 ちなみに、この序奏は面白いことにテンポ自体は結構遅いのです。
 アレグロの呈示部に入るのがだいたい4分15秒くらいで、これはわたしの持っている22種類の演奏の中では遅い方から2番目になります。
 古楽器系などの極端に速い演奏は別にしても、たいていは3分半ぐらい。4分を超える演奏はそれほど多くありません。遅いだろうと予想したフルトヴェングラーの2種類でも4分弱、メンゲルベルクの2種類に至っては3分もかかっていません。
 たしかに遅い方では、4分30秒を超えるというシッパーズ、シンシナティ響のような極端なものもありましたが、アルヘンタの演奏はその次に遅いのです。
 しかも、シッパーズの演奏が聴いた瞬間から、これは遅いと一発でわかるようなベッタリと重い演奏なのに対して、アルヘンタの演奏はそこまでテンポが遅いようには聞こえません。
 これはやはり響きの軽さが大きくものをいっているのでしょう。薄くフワットした響きのため、風通しがよく、遅いテンポでも流れが良いのです。
 その一方で遅いテンポは、宙に浮いているかのような天国的な雰囲気を出すのに大いに一役買っています。さらに、速いテンポの呈示部に入ったときに雰囲気が鮮やかに変わったのもテンポの差が大きかったのも重要な要因だと思います。
 もっとも、テンポの違いだけ見ると、実はシッパーズの方がアレグロに入ってからのテンポがはるかに速いのですが。

 こういうフランス系の響きというのは、ドイツ系の音楽であるシューベルトには、本当は合っていないのかもしれません。しかし、シューベルトの音楽は、繰り返しが多く、ともすれば重く単調になりがちです。こういう演奏は、長い曲なのにそれを感じさせず、いつまでも聴いていたくなる魅力を感じます。(2009/7/18)


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