指揮 | クレメンス・クラウス |
演奏 | ウィーン交響楽団 |
録音 | 1951年3月2日 |
カップリング | エネスコ ルーマニア狂詩曲第1番 |
販売 | TELDEC |
CD番号 | 9031-76438-2 |
これまで、例えば4楽章構成の交響曲で、第1楽章のあたりでは大人しかったのが、曲が進むにつれてだんだん盛り上がってきて、第4楽章の最後では大熱演! という演奏はいろいろ聴いた事がありました。しかし、この演奏ほど、各楽章内で、始まりと終りとで熱気に極端までの差がある演奏というのは初めて聴きました。 例えば第1楽章では、初めの序奏部分は、大人しく地味で特にこれといった特徴も無く、もう『普通』としか称しようが無いような印象を受けます。 この雰囲気は、Allegroの主題部に入ってからもあまり変わりません。 頻繁にテンポを動かしていたりするのですが、オーケストラが今一つ付いて来れず、いろいろ工夫しているのがかえって逆効果に感じてきます。 で、『悪くはないけどもう一つかなぁ』と思っていると、再現部から突然雰囲気が豹変します。 急に音楽が熱気を帯びてきて、アタックは鋭くなり、表情まで豊かになって来るのです。 これは、たしかに録音が古いためリマスタリングに差があり、生々しさに違いが出てくるという理由もあるのかもしれませんが、あながちそのためばかりでもないように思われました。 指揮者の意図にオーケストラが付いて来れるようになり、演奏に一体感が生まれ俄然迫力も段違いになってきます。 終結部に入ってからは、もう凄い熱演で、弦楽器なんて、弓の毛の5本や10本ぐらい切りまくってるんじゃないかというぐらいの勢いが感じられるほどです。 さらに第1楽章以上にこの傾向が強いのが第3楽章です。 この曲の第3楽章は、知ってらっしゃる方も多いと思いますが、典型的な3部形式で、A−B−Aという構成になっています。 まず最初に活発な主題部の『A』が演奏され、次にトリオと呼ばれる少し穏やかな『B』が来て、また楽譜の最初に戻り『A』を演奏して終わるのです。 この2回繰り返す『A』の部分は、作曲家によっては楽譜の頭に戻らず新たに別に楽譜に書く人もいますが、シューベルトはそうせず、単純に楽譜の頭に戻らせて繰り返させています。 ということは、第1回目の『A』と『B』の後の『A』は全く同じ音楽になるはずなのですが、この演奏では、とても同じ楽譜を使っているとは思えないくらい完全に雰囲気が違います。 楽章が始まって最初に演奏される『A』は、決して悪い演奏ではないのですが、どうしても大人しいという印象が拭えません。 それが『B』の後、再度『A』に戻ってくると、急に音楽の勢いが格段に活発になり、アタックも、ストロー級のパンチからヘビー級のパンチに変わったみたいに、衝撃に大きな差があります。 この2回目の方を聴いていると、『1回目って一体何だっただろうか…』という気にすらなってきます(汗) ちなみに、間に挟まれたトリオは、これはこれで、やたらとテンポ変化があり、かなり変わっているため、この部分も結構印象に残るような演奏です。 この第1・3楽章に較べると、第2・4楽章はまだ楽章内での差の少ない方と言えるでしょう。もちろん他の指揮者の演奏から見ると十分差がある演奏なのですが…… 特に第4楽章は、割と頭から勢いが感じられます。 もちろん曲調もあるのですが、勢いといっても『軽快』というような雰囲気ではなく、競走馬に鞭を入れたような、どちらかというと鬼気迫る熱気という雰囲気です。 ところでこの演奏は、ところどころにも書いて来ましたが、全体的に見ても異常にテンポをいろいろ動かしている演奏です。 その頻度はメンゲルベルク以上で、動かし方も曲の流れに沿って自然にテンポを遅くしたりするという感じではなく、ひどく唐突にテンポを速くしたり遅くしたり、ある部分などは、編集ミスじゃないかと思えるほど、音楽の流れを急に切って空白をポッカリと空けたりと(もしかしたら本当に編集ミスかもしれませんが)、いろいろと手を加えまくっています。 ただ惜しいのは、その変化にオーケストラの方が付いて来られず、テンポが変化する場面で、アンサンブルにかなりの乱れが出てしまっています。 これで、オーケストラがクラウスの意図にもっと素早く反応できていたら、もっと面白い演奏になっていたと思います。ちょっと残念ですね。(2002/8/2) |