指揮 | ヨーゼフ・クリップス |
演奏 | ロンドン交響楽団 |
録音 | 1958年5月 |
カップリング | シューベルト 交響曲第8番<未完成> |
販売 | DECCA |
CD番号 | 452 892-2 |
非常に締まった演奏です。 後年のセル時代のクリーブランド管を連想させるかのような緊密なアンサンブルです。 一分の隙もありません。 でも、単に筋肉質で固いだけの窮屈な演奏でもないのです。 メロディーはあくまでも瑞々しく、スケールも巨大というほどではないものの、十分な拡がりがあります。 クリップスはテンポを速めにとり、メロディーにしても過剰に歌わせたりはしません。 ダイナミクスとテンポを微妙に変化させることで、ほのかな彩りを与え、繊細な表情を引き出しているのです。 また、クリップスは、ピアノとフォルテ、流れる部分と硬くする部分のメリハリをつけ、ここぞという部分でピタッと決めてくれます。 特にピアノの部分のメロディーの扱いは素晴らしく、力が適度に抜けていながら芯のしっかりした音で、息を呑むような緊張感があります。 これだけの演奏ができるのも、ロンドン響の実力の高さがあってのことです。 クリップスは、この録音の時点では既に退任していますが、4年前の1954年まではロンドン響の首席指揮者であり、このオーケストラはクリップスが育てたと言っても良いでしょう。 (ちなみに、クリップス退任後、1960年にモントゥーが就任するまで首席指揮者は不在でした) その実力は、ヴァイオリンやヴィオラの中高弦だけではなく、低弦にも表れています。 この演奏の低弦は和声を下から支えているだけではありません。 どんな速いパッセージでもクリアに聞こえるフットワークの軽さは特筆ものです。 もちろんフットワークが軽いからといって、音自体が軽いわけではなく、十分な重量感を持ちながら、その上での機能性の高さには、ほとほと感心してしまいます。 また、管楽器も弦楽器に負けていません。 もう冒頭のホルンからして、その深い音色に魅了されます。 しかも、後から調べて気が付いたのですが、最近までソリストとして活躍していたバリー・タックウェルが、1955年から68年までロンドン響の首席奏者として在籍していますので、冒頭のホルンも、もしかしたらタックウェルなのかもしれません。 さらに、トランペットも存在感があります。 フォルテの部分でも、力をいれて叫んでいるわけではないのですが、その良く通る音色は、フォルテからピアノまで、必要にして十分なバランスで存在を主張しています。 特に、ピアノ部分は柔らかく響き、存在感はあるのに他のパートを全く邪魔していません。 録音に関しては、Deccaの水準の高さが存分に生かされています。 最強音の部分では、さすがに若干音が割れていますが、全体的に音は非常に鮮明で、1950年代とは思えないような音で聞こえます。 その技術力にはただただ驚くばかりです。(2001/7/6) |