F.シューベルト 交響曲第8番 ロ短調 <未完成>

指揮トマス・シッパーズ
演奏シンシナティ交響楽団
録音1976年
カップリングマーラー 大地の歌 他
発売VOX
CD番号CDX 5138


このCDを聴いた感想です。


 静かで哀しい気持ちになってくる演奏です。
 もう冒頭の弱いピアニッシモでのメロディーからひしひしと感じます。
 哀しいといっても、決して重かったり暗かったりするわけではありません。
 音色としてはむしろ明るめ、その明るさでほとんど力を入れず上をかすっている様な重さのない音でメロディーは演奏されています。
 まるで死ぬ間際の人が無い力を振り絞って演奏しているような生命力の薄い音で、実際、指揮をしているシッパーズは録音の翌年に亡くなるのですが、まさにその状況が音に反映されています。しかも、これで音色が暗かったら、ただ灰色一色の単に陰気なだけの演奏になりかねませんが、音色自体はほのかに明るいところが凶悪です。まるで死に近づく苦しみの時期は既に越えてしまい、全てのしがらみから解放されて穏やかで澄み切った心境に至っているかのように聞こえます。本当に最期の時期を迎えたようで、その明るさがよけいに哀しく思えてきます。
 そのメロディーは、はかない音ながらじっくりと歌われています。それも決して感情を強く込めた歌わせ方ではありません。ひたすら弱く繊細に、撫でるように優しく扱われてています。聴く者にストレートに飛び込んでくるのではなく、じわじわと潮が満ちてくるようにゆっくりと迫ってくるような静かな迫力を感じます。
 フォルテの部分は、ピアノの部分に比べるとだいぶ強いものの、どちらかというと重さを増やして強くしていて、鋭さはほとんどありません。ただ、響きは重くなってもテンポまでどんどん引きずっていかないように、音自体は少し短めに切っています。全体のテンポはけっこう遅めですが、ピアノでの響きは軽く、重いフォルテでも音が短くある程度キレがあるため、聞いていてもたれることはありません。
 シッパーズがこの演奏の翌年に47歳の若さで亡くなる事を知っているためもあるのでしょうが、未完成の演奏の中で、聴いていてどうしようもなく哀しくなってくる演奏は他には無かったと思います。(2007/1/20)


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