F.シューベルト 交響曲第8番 ロ短調 <未完成>

指揮トン・コープマン
演奏オランダ放送室内管弦楽団
録音1994年4月25・26日
カップリングシューベルト 交響曲第5番 他
発売ERATO
CD番号0630-15518-2


このCDを聴いた感想です。


 音の仕上がりに異常なまでに神経を集中した演奏です。
 特にピアノの部分での音の出だしには驚かされました。
 音が出てくる時にほとんど頭が無く、聞こえないぐらい弱い音で滑るように入ってきます。
 テンポもわずかに緩め、いまかいまかと待つ気持ちが最高に高まった瞬間にスッと入ってくる辺りが絶妙で、聴く方としてもその瞬間を聞き逃すまいと意識を集中させ、息の詰るような高い緊張感を感じました。
 音の境目がわからないぐらいなだらかに入ってきた音は、中を膨らませるように軽くクレッシェンドすることで耳に聴こえる音になります。こういう「中膨らませ」の演奏法は、いやらしいとして嫌う人も多いのですが、この演奏では、気に障るほど極端にやっているわけではありませんし、音の出だしの「いつ出るのかな」という緊張感と、「ああ、ちゃんと音になってきた」という安心感とがうまく対比になり、表情に陰影がついて、わたしはなかなか魅力的だと思います。
 とにかく、音の入りと中に向かっての軽い膨らませが、この演奏の全てと言いたいぐらいで、一つ一つの音が丁寧にひたすら丁寧に仕上げられていて、精巧な細工を見ているかのように人工的な域まで達しているその世界は、非常に印象的でした。
 音一つに対してあまりにも念入りに手間をかけているため、テンポの方はかなり遅く、トータルの演奏時間は28分半、特に第1楽章は、いくら繰り返しを行なっているとはいえ、16分を超えるというのはちょっと強烈ではないでしょうか。
 ただ、テンポが遅い割にはあまり重くもたれた印象は受けません。
 編成があまり大きくなく、響きが軽く風通しが良いことに加え、ピアノでは滑るように出てくる音の出だしも、フォルテではちゃんと硬くアタックが付いていてスピードがあるため、意外と流れが良く聴こえるのです。
 わたしは、基本的にテンポが遅い演奏はあまり好まない方なのですが、この演奏はそのテンポの遅さに納得できましたし、なにより丁寧な仕上がりに感嘆しました。
 このコープマンとオランダ室内管とのコンビは、次はバロックや古典派ではなく、ぜひメロディーがより表情豊かなロマン派あたりの曲を聴いてみたいものです。ただ残念なことに、コープマン自身はどこかのインタビューで、ロマン派はシューベルトぐらいしかやるつもりはない、と話していましたが。(2004/10/30)


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