F.シューベルト 三つの軍隊行進曲 第1番

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1942年4月17日
発売及び
CD番号
Pearl(GEMM CD 9154)
BIDDULPH(WHL 039)
NAXOS(8.110864)


このCDを聴いた感想です。


 この「軍隊行進曲」という曲は有名な曲ですしメロディー等ももちろん以前から知っていました。
 しかし、この感想を書くために改めて調べてみると、初めて知るような事実がいくつも出てきて、いかにわたしがこの曲について知らなかったか愕然とさせられました。
 初めて知るといっても、別に知られざる秘話とか専門家だけが知っているような情報ではありません。むしろ知っている方が当たり前というぐらいの常識の範囲の知識です。
 実は……恥ずかしながら、わたし、今の今まで原曲が四手用のピアノ曲ということを知りませんでした(汗)
 この感想を書くために他の人の演奏を聞いてみたところ、メンゲルベルクの演奏とオーケストレーションが少し違うことに気がつきました。それでも初めは、またメンゲルベルクのことだから楽譜を勝手に変えているのだろうぐらいに思っていたのですが、メンゲルベルク以外の演奏同士でもオーケストレーションが異なっているため、どうやらメンゲルベルクだけが勝手に編曲したのではなく、そもそも決まった管弦楽版自体が無いのではないかと思い当たりました。
 慌てて調べてみて、初めて、管弦楽曲ではなくもともとはピアノ曲で、それがいろいろな人によってオーケストラ用に編曲されていることを知ったのです。
 ここで気がつかなければ今後もずっと管弦楽曲として信じて疑っていなかったでしょう。実に危ないところでした。
 ついでに、この軍隊行進曲が『三つの』というもの当然の如く知りませんでした。
 いや、たしかにCDによっては第1番と書いてあったりするので、『もしかして第2番以降もあるのかなぁ』と考えたこともなくはないのですが、当時は原曲自体が管弦楽曲と思っていましたから、もし第2番以降があるのなら威風堂々みたいに大抵はセットで収録されるはず、しかし第2番以降の軍隊行進曲が収録されたCDなんて見たことがない(当時は原曲を知らなかったため)、ということはビゼーの交響曲みたいに第1番とついていても実際には第2番以降は無いのではないかなどと考えていました。
 もちろん実際は第2番以降は単に管弦楽曲として編曲されなかっただけで原曲のピアノ版ではちゃんと第3番まで収録されています。
 こんな話、知っている人にとっては『何を今更改めて』と思われるでしょうが、知らないわたしにとっては驚きというか非常に新鮮だったというか、良くも悪くも衝撃的でした(笑)

 まあ、わたしの恥はこれくらいにしておき肝心の演奏の方ですが、行進曲らしく硬さを前面に出していながら意外とメロディーを重視した演奏です。
 行進曲ということもあり音を短く切ってリズムを強調してはいますが、リズムばかり目立つのではなくメロディーも良く歌われています。
 もちろんチャイコフスキー等みたいに慟哭するような歌わせ方ではありませんが、行進曲風に明るく溌剌ばかりではなくメロディーに余韻を持たせて少し感傷的な表情を出しています。
 その一方で驚いたのがテンポです。
 かなり速めです。
 行進というよりほとんど競歩のような速さで、まるで追い立てられているみたいに急いでいます。
 メンゲルベルクが他の曲でやるようなメロディーの変わり目でテンポを落としたりなんていうのもほとんどやっておらず、せいぜいトリオの手前で多少落とすぐらいです。
 それだけテンポを速くする理由の一つとして当時の録音時間による技術上の制約も考えましたが、その割に繰り返しを全く省略せずにすべて行なっていますし、そもそもこの録音の演奏時間は4分半ぐらいですが、録音が行なわれた1942年であれば一枚の録音盤に6分程度は入るのでまだまだ余裕があったはずです。
 ということは、やはりメンゲルベルク自身が軍隊行進曲は速いテンポで演奏したかったということなのでしょう。
 それにしてもこの頃の演奏で繰り返し記号を省略せずに全て行なっている演奏というもの珍しいのではないかと思います。
 特にこういった行進曲はやたらと繰り返し記号ばかりで、それを忠実に全部行なうと譜面がゆうに2.5倍くらいに長くなってしまうため、現代の演奏でも繰り返しを省略するのは珍しくありません。
 ましてや当時であれば省略する方が一般的でしょう。メンゲルベルクは繰り返し記号は必ず省略する……わけではありませんでしたが、だからといって繰り返しを尊重する方でもありません。楽譜に書いてあることは忠実に守らなければならないなんて思っていなかったのは皆さんもご存知の通りです。
 そんなメンゲルベルクが行進曲の繰り返しを全て忠実に行っているというところが珍しいし面白いところです。意外と繰り返しをしないと短すぎると思ったからかもしれませんが。
 1942年の録音なのでメンゲルベルクの晩年の演奏なのですが、硬めの音といい、速めの一定のテンポといい、繰り返しを行なうことといい、まるで若い頃の録音のようです。
 ついでに録音まで若い頃のようで、1940年代のスタジオ録音の割に今一つ音が良くなく、せっかく編曲が管主体なのにそれぞれの音が鮮明に聞こえずこもった響きになってしまっている点が少々残念でした。(2004/5/22)


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