F.シューベルト アリエッタ「恋はいたるところに」D239/6
〜歌劇「ヴィラ・ベッラのクラウディーネ」より第1幕第6曲〜

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独奏ソプラノ:ベティ・ファン・デン・ボッシュ(Betty van den Bosch)
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1940年12月19日
発売及び
CD番号
AUDIOPHILE(APL 101.546)
Q DISC(97016)
ARCHIVE DOCUMENTS(ADCD.109)


このCDを聴いた感想です。


 この曲は、シューベルトの作曲とはいえ、あまり有名な曲ではないでしょうから(少なくともわたしは全く知りませんでした)、最初に曲の解説を少し書いておきます。
 まず、このアリエッタが入っている歌劇「ヴィラ・ベッラのクラウディーネ」ですが、1815年に作曲され、ゲーテの台本に基づいた全3幕の歌劇というところまではわかったのですが、肝心の内容については、申し訳ないのですが見つけられませんでした。
 さらにこの歌劇は、作曲当時はおそらく完成していたと思われるのですが、現在は序曲と第1幕しか現存していません。
 残りの第2・3幕の楽譜は、あるCDのリーフレットによると、シューベルトの友人のアドラートゥス・ヨーゼフ・ヒュッテンブレンナー(未完成交響曲の楽譜を預かっていたアンセルム・ヒュッテンブレンナーの弟)が預かっていたのですが、シューベルトが亡くなってから20年後の1848年に、彼が留守をしている間に、家の者によって誤って焚き付けにされてしまったのだそうです。
 いやもう、ハイドンの妻のマリア(さすがに焼いてはいませんが)や、三国志で華佗の医学書を焼いた呉押獄の妻じゃあるまいし(笑)
 しかも、この歌劇が初演されたのは、作曲から100年近く経った1913年のことです。つまり、初演された時には、既に序曲と第1幕しかなかったというわけです。
 アリエッタ「恋はいたるところに」は、第1幕の中のアリアであるため、幸い焼失を免れ、歌劇全体ではほとんど演奏されない今となっては、単独で取り上げられ、ソプラノ歌手のレパートリーの一つとして知られています。
 演奏時間も1分から長くても1分半程度の非常に短いもので、メンゲルベルクが録音を残した曲の中でも随一の短さを誇っています。
 これだけ短いのですから、歌詞の方もそうたいした内容を歌っているわけではないのですが、面白いのは、タイトルが「恋はいたるところに」とありますから、全体の内容も当然恋の楽しさについて喜ばしげに歌ったものかと想像しがちなのですが、実は違います。
 たしかに歌い出しは「恋はいたるところに」で始まるのですが、その続きは「あるけれども」と続き、どこにでもある「恋」ではなく、ひっそりと隠れてなかなか見つからない「誠実」こそ求めるべき、という内容なのです。
 なにやら、マルティーニの「愛の喜び」を思い出させますね(……もっとも「愛の喜び」ほど正反対ではありませんが)

 現在、このアリエッタが演奏される時は、ソプラノ歌手の一レパートリーとして演奏されているため、ほとんどの場合はピアノによる伴奏です。しかし、メンゲルベルクによる演奏では、オーケストラが伴奏しています。同じ日に交響曲第9番なども演奏されていますから、おそらくシューベルトの特集の一環だったからでしょう。
 オーケストラによる伴奏は、原曲の歌劇の楽譜によるものだと思います。なにぶん録音が悪くて細部までは良く聞き取れないのですが、弦5部+木管+ホルンという編成のようです。もちろん弦楽器が主体なのですが、管楽器では目立っているのはオーボエで、前奏や間奏のメロディーなど目ぼしいソロは全てオーボエが吹いています。
 また、他のピアノ伴奏によるソロの演奏と聞き比べると、明らかに違っているのが調性です。
 メンゲルベルクの演奏より、ピアノ伴奏による演奏は、おそらく一音分(たぶん長二度)低く演奏されています。
 わたしはピアノ伴奏版を2枚持っているのですが、2枚とも同じ低い調性で、一方、メンゲルベルクの方は、同じ演奏ですが3枚のCDとも、同じ高い調性です。
 ここで総譜があれば一発でわかるのですが、残念ながら持っていないため、ピアノ伴奏に編曲される際に低く編曲されたのか、はたまたメンゲルベルクが一音高くしてしまったのか、実は録音やマスタリングの時にミスで高くなってしまったのか、この点はわかりません。

 さて、演奏の方ですが、短い曲ということもあり、ほとんどソリストのデン・ボッシュを聞くための演奏のようなものです。
 デン・ボッシュの歌い方は、太い声でたっぷりと歌わせたスケールの大きな歌い方です。
 表情付けもかなり濃く、この辺りはメンゲルベルクの指導によるものかもしれませんが、ピアノ伴奏版に多い歌曲のような抑えた歌い方ではなく、まさに歌劇のアリアのようにテクニックを誇示するような華美な歌い方で、わたしはそういう点が好きなのですが、オーバーアクション気味なので、少々くどく感じるかもしれません。
 伴奏のオーケストラは、あくまでも伴奏として脇役なのですが、それでも、細かい動きに対する歌いこみや、テンポの伸び縮みに対する柔軟性などは、さすがにメンゲルベルクらしさが垣間見えています。(2003/12/13)


サイトのTopへ戻る