F.メンデルスゾーン.B 僧侶の戦争行進曲 劇音楽「アタリア」より

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック
録音1924年4月16日
発売及び
CD番号
BIDDULPH(WHL 025-26)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクのメンデルスゾーンの録音は、劇音楽「真夏の夜の夢」と、この曲の二種類しかありません。
 とはいえ、まさか他の曲がレパートリーに入っていなかったとも思えませんが、録音としては残りませんでした。とても残念です。
 しかし、代わりと言ってはなんですが、この曲は二種類も録音が残っています。しかも両方ともニューヨーク・フィルです。
 ……なんだか、もの凄く偏っているような気がするのですが(笑)
 まあ、片方が機械録音で、もう片方が電気録音ですから、おそらく『電気録音が発明されたから録り直した』という事なのでしょう。

 で、今回取り上げるのは古い方の録音、つまり機械録音の方です。
 新しい録音があるのに、なぜわざわざ古い方の録音を取り上げるのかといいますと、古い方は古い方で、再録音とはまた異なる魅力があるからです。
 なかでも、最も印象に残ったのが、中間部のゆったりとしたメロディーの歌わせ方です。
 この部分は、弦楽器が主体なのですが、メンゲルベルクはポルタメントを大胆に使い、妖しいまでの甘さを引き出しています。
 その甘さは、まるで麻薬のようで、なんだか近づいてはいけないのにフラフラと近づきたくなるような不健康な(というと言い方が悪いかな?)魅力があります。
 これが再録音の方では、甘い事は甘いのですが、ここまで露骨では無く、もっと上品になっています。
 おそらく、これは、機械録音と電気録音の差が大きく影響しているのではないかと思います。
 機械録音では、音が貧しく、細かいニュアンスの変化なんてほとんどわからないので、ある程度大げさにやる必要があったのでしょう。
 これが、電気録音になると、もう少し細かいニュアンスまで聴き手に伝える事が可能になったため、それほど大きく差をつける必要が無く、逆にニュアンスのちょっとした差で聴かせる演奏になったのだと思います。
 とまあ、以上は、わたしの勝手な推測ですが、そのおかげで再録音に無い魅力が出て来たわけですから、これはこれで嬉しいことです。
 といって本当は、録音機械の進歩とは関係なく、メンゲルベルク本人の音楽の傾向が、たまたま、より細部に拘る演奏になって行ったのが、そのまま表面に出てきただけかもしれませんが(笑)

 また、この演奏の特徴の一つとして、スコアの改変があります。
 小さなところでは、編成が薄くなる部分で楽器を追加して、音の厚みを補強していますし、大きいところでは、曲の終りの方の、再度中間部のメロディが出てきた直後あたりで、元の楽譜をカットして、新たな小節と入れ替えています。ただ、内容としては、最初の主題を原曲よりも多く繰り返すだけなので、流して聞いているとそれほど違和感は感じないのですが、たしかに展開が原曲とは少し異なっています。
 ちなみに、このスコアの改変は、再録音の方ではやっていません。
 曲の長さを短くしているのではないため、録音時間の制限とも思えませんし、なぜ再録音の方では原曲通りに戻してしまったのかちょっと不思議なところです。

 話は少し変わりますが、この曲は実に機械録音に向いた曲だと思います。
 電気録音と較べ、機械録音では、どうしても音が貧弱だったり、全部ゴチャゴチャになって細かい部分が全くわからなくなったりしてしまいます。
 ところが、この曲は、
『メロディーがハッキリとしていて、複雑な絡み合いが無い』
『オーケストラの厚みにそれほど幅が無く、ダイナミクスも大きな差が無い』
『さらに、一曲あたりの所要時間が短い』
 という特徴があります。
 まあ、要するにマーチの特性みたいなものですが、このおかげで細かい部分まで聴き取れない点も、それほど気になりません。
 つまり、最も劣悪な録音に耐えうる音楽なのです(笑)
 しかも、所要時間が短いので昔の短時間しか収録時間が無い原盤でも一枚で収録できるという利点まであります。
 だからどうした、という程度の話なのですが、なんとなくこういう視点も面白いかなと思いまして。(2002/3/29)


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