F.メンデルスゾーン.B ヴァイオリン協奏曲

指揮ウラディミール・ゴルシュマン
独奏Vn:ミッシャ・エルマン
演奏ウィーン国立歌劇場管弦楽団
録音1959年5月
カップリングラロ スペイン交響曲
発売Omega(VANGUARD CLASSICS))
CD番号OVC 8034


このCDを聴いた感想です。


 エルマンとメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。いかにも定番の組み合わせのようですが、意外なことに、わたしが知る限りでは録音はほとんど残っていません。
 スタジオ録音は、このゴルシュマンとの演奏のみ。他は戦後間もない頃のドラティ/ハリウッド・ボウル管とのライブ(これは未聴で噂でしか知りませんが)と、1953年のミトロプーロス/ニューヨーク・フィルとのライブの2種類があるきりです。若い頃からあれだけ著名だったにもかかわらず、どうやら戦前の録音はないようなのです。
 今回取り上げる、おそらく唯一だと思われるスタジオ録音は、エルマンの晩年に近い頃ですから音色もテクニックも全盛期の頃には遠く及ばないでしょう。ただ、その代わり録音の技術は戦前より格段に進歩しており、ステレオ録音という点は、大きな利点となっています。

 演奏の方は、いくら衰えたといっても、やはりエルマンが主役です。
 とにかくストイックとか協調という言葉とは無縁の独奏で、「俺の音を聴け」とばかりに、本当にやりたい放題に弾いています。
 全体でみたテンポ自体はそれほど大きく変えているわけではないのですが、メロディーを自分の歌いたいように自由に歌うあまり、小節の中でのテンポはほとんど無視され、激しく伸び縮みし、場合によっては小節をはみ出して、装飾音のように前に引っ掛けたり、小節の頭に休符でもあったかと思うぐらいもったいつけて登場したりと、ほとんど決まったテンポが無いように聞こえます。
 スタンダードとは対極の癖の強い歌い方で、エルマンの演奏だけは、演奏者を伏せて聴かされても一発で分かるのではないでしょうか。
 ただ、好き放題に歌っているのはたしかですが、歌い方自体は、1953年のミトロプーロスとのライブの時もほとんど変わらず、エルマンの感じたままの歌い方としてもキチンと固まっており、決してその場の思いつきで好き放題やったのではないようです。
 音色については、わたしは全盛期(おそらく1920年前半の機械録音の頃まで)のエルマントーンを聴いたことがないので比較はしていませんが、この晩年のエルマンの音もそう悪い音ではないと思います。
 曲調もあるのですが『陽気な音』という印象を受けました。それほど心にしみるような深い音というわけではないのですが、太く明るい音で、歌い方とあわせて、たとえ魔力は失っても人柄で「ま、いいか」と認めてしまうような天真爛漫な雰囲気があります。
 わたしにとってエルマンの魅力は、エルマントーンよりもむしろそういった雰囲気の方にあるようです。
 テクニックは、衰えたとは言いますが、スタジオ録音ということもあって、ライブでのハラハラドキドキの状態に較べると、まだ安心して聴けるレベルです。ただ間違えてもハイフェッツ辺りとは較べてはいけません。あっちは宇宙人か何かと考えておきましょう。

 一方、伴奏のゴルシュマンですが、ほとんどテンポが無いように歌っているエルマンを上手くサポートしています。
 テンポを合わせるだけでなく、音色としても、自分が一番のエルマンを立て、ごく控えめです。けっこう太い響きですがそれほど重くなく、なにより常に柔らかい音でソロを引き立てています。
 とはいえ、第3楽章のチェロのゆったりとした対旋律などは意外とスケール大きく歌ったりと、ところどころハッキリとした自己主張があり、そこもなかなか面白いところです。

 そういえば、この演奏は昨年(2004年)ぐらいに、国内盤で再販されたのですが、なぜか録音年の記載が異なります。わたしの持っているこのCD(輸入盤)には1959年9月と書いてありますが、国内盤では録音は1960年となっています。おそらく演奏は同じでしょうし、録音年の違いぐらいどうでも良いといえばどうでも良いのですが、まあ少し気になりました。(2005/4/9)


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